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 時は平安の世。  秋も深まり、揉み出ずる赤を散りばめる(かえで)が、神社の朱色と相混ざり、境内の空気は美しい紅葉(こうよう)色に満たされていた。  そんな穏やな神社の参道で、緊迫した空気を張り詰める一人の男がいた。    呪術を操る生業故に、人ならざる者との対峙は日常茶飯事。御年三〇歳(みそじ)加茂(かも)信重(のぶしげ)。陰陽道のエース成り。  大きく一歩、前に出ると、地面に尻が付きそうなほど腰を落とす。  大錫杖(だいしゃくじょう)は、六尺(1・8メートル)の柄の(かしら)にぶら下がる六つの輪をシャリンと鳴らす。  脇に持ち、突き出す体勢。即ち、攻撃の構えを取った。  大錫杖の尖った先を、妖気を(まと)い目の前で佇むへと向ける。  信重が立ち向かっている相手は妻、寧々(ねね)だった。
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