在りし日々と炎の記憶 ‐Ricordi di vecchi tempi e fiamme‐

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  「ダイアンシスは今、ここが痛い痛いなのだ。だから側にいてくれるだけでへーき」  その言葉を聞き、兄の肩が僅かにだがびくりと跳ねる。例え構って貰える頻度が減ったとしても、そこに兄がいてさえくれればそれでよかった。  兄の服に顔を埋めて深呼吸をすれば、鼻腔へと伝わる嗅ぎ慣れた匂い。落ち着いたところでトイレに起きてきたことを思い出し、安心感から再び睡魔に襲われる。  「本当に、ご免な」――うとうとと舟を漕ぎ出し、意識が途切れる前にそんな声を聞いた気がした。  ダリアが異変に気づいたのは、それから数時間後だっただろうか。部屋にまで漂ってくる変な匂いで、再びむくりとベッドから上体を起こす。どうやら寝落ちした後、兄がここまで運んでくれたようだ。  しかし、問題はそこではない。  目が覚めてすぐに気づいた鼻をつく異臭。全く状況が飲み込めないまま、それは部屋に流れ込み始めていた。  一体何が起こっているのか――訳が分からずおろおろとしていると、部屋のドアが開き、その向こうから母が酷く焦燥した様子で声を飛ばす。 「ダリア! 早くこっちへ!」  普段は落ち着いていることが多い母の血相を変えた口調に、ただ事ではない何かが起こっていると理解した。すぐさまベッドから下りて母の元へと駆け寄り、後に続く。  廊下に出ると父の姿もあり、同時に動物の毛を燃やしたような焦げ臭い匂いが呼吸器を刺激する。 「ダイアンシスは?」  
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