113人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
そう言って母が手渡したのは、赤い宝石の着いたネックレスと、水晶のように多角的に輝く丸い石だった。それは両方とも導く力を持つ、特に赤い石は代々ヴァランド家が受け継いできたものだ。
母は、共に取り出した布袋にそれを詰めるよう促す。突然、何かが崩れ落ちる音をかわきりに閉ざしていたドアが燃え始め、やがて煙と共に部屋が炎に包まれる。
「さあ、行って」
背後へ迫り来る炎を気にしながら、そう言って否応なくダリアを隠し通路の中に抱え降ろす。
「ダリア、生きて……」隠し通路の扉が完全に閉ざされる前に聞いたのは、炎に包まれながら発した母の一言だった。
やがて光を切り取る扉は姿を消し、残されたダリアはただただ石壁に覆われた隠し通路を、出口を目指し突き進んだ。
どれぐらい歩いただろうか、道が途絶えたところでようやく天を仰ぐ。そしてうんと両手を伸ばし天井の壁を押すと、土を落としながらゆっくり扉が薄暗い光を切り取る。
外に出て、そこで初めて屋敷のある方向を見ると、暗い空の下、炎に包まれ煌々と燃える我が家があった。両親も、そこにいた従者達も皆あの明々とした炎に飲まれてしまったのだと悟る。
もう、帰る場所はないのだ――そう思うと一気に悲しみが押し寄せ、燃え盛る炎を映す視界が滲む。
だがそこで、ダリアは信じられないものを目の当たりにする。
「えっ……、ダイアンシス……?」
最初のコメントを投稿しよう!