在りし日々と炎の記憶 ‐Ricordi di vecchi tempi e fiamme‐

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   そう言って母が手渡したのは、赤い宝石の着いたネックレスと、水晶のように多角的に輝く丸い石だった。それは両方とも導く力を持つ、特に赤い石は代々ヴァランド家が受け継いできたものだ。  母は、共に取り出した布袋にそれを詰めるよう促す。突然、何かが崩れ落ちる音をかわきりに閉ざしていたドアが燃え始め、やがて煙と共に部屋が炎に包まれる。 「さあ、行って」  背後へ迫り来る炎を気にしながら、そう言って否応なくダリアを隠し通路の中に抱え降ろす。  「ダリア、生きて……」隠し通路の扉が完全に閉ざされる前に聞いたのは、炎に包まれながら発した母の一言だった。  やがて光を切り取る扉は姿を消し、残されたダリアはただただ石壁に覆われた隠し通路を、出口を目指し突き進んだ。  どれぐらい歩いただろうか、道が途絶えたところでようやく天を仰ぐ。そしてうんと両手を伸ばし天井の壁を押すと、土を落としながらゆっくり扉が薄暗い光を切り取る。  外に出て、そこで初めて屋敷のある方向を見ると、暗い空の下、炎に包まれ煌々と燃える我が家があった。両親も、そこにいた従者達も皆あの明々(あかあか)とした炎に飲まれてしまったのだと悟る。  もう、帰る場所はないのだ――そう思うと一気に悲しみが押し寄せ、燃え盛る炎を映す視界が滲む。  だがそこで、ダリアは信じられないものを目の当たりにする。 「えっ……、ダイアンシス……?」  
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