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しかし、この暗さはなんとかしたいところだ。ヴァンパイアであるダリアは平気だろうが、ただの人間である自分には音の情報しか入って来ないのだから。
「暗いから明かりを点けましょ」
ダリアがいるから問題ないとはいえ、やはり少しは光が欲しいところだ。そう言ってアイリスは肩に提げていた鞄から懐中電灯を取り出そうとする。
「む、取ってやるぞ」
側でアイリスがいそいそと鞄の中を探るのを見たのか、代わりにダリアが懐中電灯を取り出す。
「これを押すのか?」
初めて見て触れる無機質な物体に、きっと彼は興味津々な表情をしているのだろう。そして疑問符混じりの声が届くと同時にカチッという音が鳴り、眩い白光が辺りを照らす。
「ぬおっ!? まぶちぃ!」
闇を切り裂くほどの強烈な白光を真正面から諸に受けたダリアは、あまりの眩さにきつく瞼を閉じ間の抜けた声を上げ、片手で視界を覆い仰け反る。
視力の良いヴァンパイアにとって、懐中電灯の光は些か刺激的だったのだろう。申し訳ないと思いつつも、幾らか滑稽なその様子にアイリスは苦笑し、左手を差し出す。
「電球の方を顔に向けてるから。貸して」
するとダリアは瞼をしばたたかせ「目潰しを食らったのだ」と言いながら、まるでバトンのように明かりの点いた懐中電灯を手渡した。
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