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「知っているぞ。ロベリアは、我々ヴァンパイアが崇めてきた存在だ。特に私の一族はその直系だったらしいが。しかし、まさか本当にそんな力が……?」
単なる偶像だと思っていた存在のもたらす秘められた力に、さしものダリアも些か信じ難い様子だ。
そんな時、視界の端に留まったのは、机の隅に転がった数個の小瓶に入った薬液。恐らくこれが以前ダイアンシスの言っていた、2、3時間だけ日光を克服するものの正体なのだろう。
しかしそこで、アイリスの脳内にふとした疑問が過る。
もし契約でダイアンシスがこれを生み出す力を得、その代償が命ならば、それは本当に全てのヴァンパイアの為なのだろうか。同胞の為に同胞の命を捧げる――その部分に、アイリスは何か違和感を覚えずにはいられなかった。
しかしそれを明かすには当人に聞くより術はなく、アイリスは「とにかく」とひと声発し本を綴じる。本の表紙には『ヴァンパイアの秘密』と記されており、再びそれを鞄に仕舞う。
「行きましょ、全て終わらせるの。ヴェロニカさんの為にもハッピーエンドにしなきゃ」
そして隣に立つダリアの手を取ると確かな口調でそう言い、固い決意の眼差しで彼を見つめ、その口元に笑みを湛える。
「そうだな……」
彼もまたふっと笑みを返し、備え付けのドアからところどころ焼け跡の残るこの部屋を後にした。
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