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下弦の幻影
諦められずに手を伸ばして
すり抜けたものに想いを馳せる
元々無かったものなら気にならないのに、あったはずのものを忘れてしまうことは難しい。そして一度落としてしまうと、いくら捜しても見つからなかったりする。そのうち何を捜していたかも見失って、何かが足りないという想いだけが手の中に残る。そうなってしまうと曖昧な願いは曖昧なまま、叶うことなく宙に吸い込まれ消えていく。結果、ありもしない偶像に手を伸ばし、届かないことに安堵する。
欲しくても手を伸ばすのを諦めた苦しさと
一度手にしたものを諦めようとする苦しさ
ぼくを弱気にさせるのは
逢えない日々がながいからか
それとも
今夜の片割れ月がやけに
もの悲しくみえたからなのか
地球が隠した断片を辿るかのように
指先で弓を描く
求めていないフリをしながらぼくは
誰よりもそれを
欲していたのかもしれない
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