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こぼれ桜
「話したいことは山ほどあるんだ。……が、何から話してよいか」
『いいのよ』
「なかなかことばに出来なくてね」
『あいにきてくれただけで……』
「毎日でも会いたかった」
『わかってた。……ありがとう』
はらはらと舞う君の欠片たちが、ぼくの指からすり抜けるようにおちていく。
「本当はもう、君を繋ぎとめる言葉が見つからないんだ」
『いいの、わたしではあなたをみたせないもの』
貌を無くしてしまいそうなそれを、ぼくは美しいなと想う。
君を前にことばが出ないのは、君に届かないと分かっているから。
『さようなら』
満月の夜……
散りゆく桜のように君が笑った。
……了
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