Case3. ウソツキ×ウソツキ×ウソツキ

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「――って、夢をみたんですけどね!」 その後は加々美先輩、股から血をぼたぼた落としながら真顔で眞木先輩と女の人を滅多刺しにしちゃうし、最後は俺も心臓を一突きですよ。血塗れの包丁で。とんだホラーじゃないですかあ! なんて、やや興奮気味に口を回らせながら抗議を繰り返すバカに。俺はうるせえと蹴りをくれてやった。理不尽~!と、またピーチクパーチク喚いていたけど。んなもん知るか。無視だ無視。 「つうか、俺の扱い酷くね?」 冷凍庫の中からアイスを三つ。 それぞれの好みのものを取り出し、のんびりとした足取りでこちらへと向かってくるのは。先程まで穂波の〝夢の中〟の話でサイコパスホラーよろしくやっていた張本人、加々美 昊。 「扱いもなにも、昨夜やってたドラマの話まんまだろ」 「あ、マッキー先輩なんで知ってるんですか~」 「俺もダチと見てたんだよ」 「なんだ、つまんないの」 なんだ。じゃ、ねえよ。後ろ見てみろや。イケメンの小鼻めちゃくちゃ開いてんぞ。こうなったこいつがクソ面倒くさいの、一番よく解ってんのはお前だろうが。あ゙?わかってるからか? 「はー、もう。夢の中だったとしても許せねえわー。眞木と穂波が浮気するとか無理だわー、マジで死ねるわー」 そこそこ広い部屋でなんだってわざとくっつくようにして腰を下ろすんですかね加々美さん。暑苦しい。うざい。滅べ、バカップル。 ほらと、雑に投げ渡された俺のアイスに罪はないとして。 俺そっちも食いたいですーしょうがねえなーじゃあ半分こするかーとか。マジでうざい。今世紀最大にうざい。消えろ、バカップル。 「だいたい、穂波バカのコイツが浮気とかありえねえだろ」 「いや、まあそうなんですけどね」 「え、マジで俺の扱い酷くね?」 「だってお前、ヒくぐらい穂波しか見えてねーじゃん」 「……あ、ウン。それは否定しない」 「でもでも!俺の心は深く傷ついたんですよ!例え夢の中でも、加々美先輩が……浮気、とか、」 「っ、明希!!」 見つめ合って、感極まって、所謂大好きホールド?だっけか。あのクソ腹立つ体勢でイチャイチャとし始めて。二人の世界ってやつへ旅立とうとしやがるもんだから。俺の存在忘れてんじゃねーぞと。また、文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、止めた。 まあ、最低限の抵抗としてでけえ溜息はお見舞してやったけどな。アホらし。んな茶番劇にいちいち付き合ってらんねえわ。 溶けだしたアイスに舌を這わす。咥内を通じて鼻腔に広がるバニラビーンズの良い香り。甘くて、ありきたりな、でも、好ましい味。 「……ふはっ」 それを、堪能しないなんて奴は馬鹿だ。 ゆるゆると、自分に向かって伸びて来る細い腕。その指先に垂れる白い液を。ぺろりと綺麗に舐め取ってやれば。少しだけしょっぱくて、先程の味とはまた異なる濃厚なミルクの味。 なに突然笑ってんだよと、背を向けたままの加々美にはもう一度短い笑い声をくれてやって。なんでもねーよと嘘を吐く。 ぽたり、ぽたり、溶けだしたら止まらないそれを。最後にひと舐めして、距離を取った。その先で。淫楽の色を滲ませて俺を見つめる穂波は。そのまま、人差し指を唇の前に立て、静かに微笑む。 世界は、随分と嘘吐きだ。 本当ニ嘘ヲ吐イテイルノハ、ダァレ?――なんてな。
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