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「なんだこれ」
決定的な浮気現場との遭遇。それは、同棲をし出してすぐのことだった。二つもベッドを置くスペースはないからと、ギリギリ男二人でも寝られるサイズのものを選んだそのベッドの上で。手足を絡ませ、すうすうと気持ち良さそうに寝息を立てている見知った顔と見知らぬ顔の男女。言わずもがな、男の方は加々美先輩で。
女の方は本当に知らない人だった。――マジで誰?
ただ、この部屋で。俺達の寝室で。何が行われていたのかは歴然たるもので。うわ、この男サイテーだな。と、悪態を吐いた自分は正しかったと思う。そうして脱ぎ散らかされた服と、雑ながらそつなく施された後処理を見て頭を抱えた。これ、初犯じゃないわと。
俺は、どうにもソッチ方面に疎いらしく。今まで気が付かなかっただけで、多分、恐らく、加々美先輩はずっと前から浮気を繰り返していたのだと思う。もしかしたらアレも?アレもなのか?なんて、心当たりが今更ながらに幾つも思いついたからだ。
やけに頬や身体がキラキラとしていた時。甘い、女物の香水の匂いを漂わせていた時。クローゼットに戻そうとしたコートのポケットから、ラブホテルの名前が刻印されたライターが出て来た時。使った記憶のない避妊具の空箱が出て来た時。何故か、女物の下着が脱衣所から発見された時。あ、うん。真っ黒だわこの男。
「……はあ、」
今まで、よくもまあ気付かなかったなと自分自身へ向けた溜息は、運悪く素っ裸で寝ていた女の人に拾われてしまって。あ、待って動かないで。生々しい情事の痕が残ってる身体とか見たくないです。と、歪んだ顔で目を背ければ。引き攣れた短い悲鳴が上がった。
いや、悲鳴というか。泣きたいのはこっちの方なんですけど。とは言わず、もう一度溜息を吐いて。未だ気持ちよさそうに眠る、全ての元凶である男の後頭部をおもいっきりブン殴った。
それからの絵に描いたような修羅場具合は、今思い出しても鬱になりそうなんで割愛させて頂きますが。取り敢えず、加々美先輩は最低のクズ野郎だと俺もA子さん(仮)も意見はブレずに揃ったので。
つまりは、まあ、そういった感じです。
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