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――などと、紆余曲折あって。
これを見逃すのは流石にダメだろうと。後日、ちゃんとした話し合いの場を設けた俺ってばすごい!大人の対応!と、一人自画自賛していた頃がなんだか懐かしい。そこで俺は、加々美先輩のとんでもなく歪んだ愛情ってやつを目の当たりにしてしまうのだから。
「だって穂波、全然気づいてくんねーんだもん」
もんって。いい大人が言ったって可愛げもクソもねえよ、と。幾ら脳内でキレッキレな突っ込みを披露したところで、この男の口が止まるわけもなく。淡々と感情があるんだかないんだか解らない口調で、加々美先輩は今までの浮気遍歴を自ら語り出した。
そこで解った事は三つ。
まず、程好く酒が入っていること。素面で浮気をしようとは思わないらしい。酒の力があるからこそ浮気ができるらしい。嘘くせえ。次に、相手は後腐れのない割り切った関係を望む女であること。たまに本気になられて困る時もあるけど、基本的にはお互いの名前すら明かさないまま一夜限りで「はい、サヨナラ」なんだとさ。
そして、浮気をする理由。それは、俺への気持ちを再確認する為。だ、そうだ。あ、あの子良いんじゃね?あれとならヤれんじゃね。ほら、ヤれた。女も抱ける。女でも勃つ。気持ち良い。柔らかい。かわいい。自分は、やっぱり基本的にはストレート。
でも、穂波が良い。穂波に一番興奮する。泣かせるのも、懇願させるのも、孔の具合も。女じゃ全然物足りない。――と。
いや、うん。だから、そんなこと言われても俺はどうすれば良いんだか。思わず、眉間に皺を寄せて俯くと。なにを勘違いしたのか、この最低クズ野郎は「傷付いた?嫉妬した?でも、愛してるのは本当にお前だけだよ。帰ったらいっぱいエッチなことしような」と、甘く低い声で囁いた。もう、怒る気にもなれない。
更に、極め付けが。
「でも、気付かない穂波も悪いんだからな?」
なんて、先日の悪行をしれっと俺の所為にしようとしてきやがるもんだから。いよいよ頭がオカシイんじゃないかと顔を上げると。其処には、甚く嬉しそうな。楽しそうな、こうなる事が望みだったような。そんな満面の笑みを浮かべる加々美先輩の姿があって。
俺は、恐怖を覚えた。それと同時に、この男の浮気癖は一生治らないだろうなと。そう思った。
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