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「お前、よくそんなクソ虫と付き合ってんな」
隠すことなく嫌そうな顔をする先輩に、へにゃっと口許が緩む。
「いや、ホントですよ」
「自覚あんならどーにかしろよ」
「でもあの人、俺と別れたら死にそうだったじゃないですか」
「あー、それはなあ……」
カチンと安物のグラスを合わせ、本日何度目かの乾杯をする。
加々美先輩と出会って四年。付き合って二年と少し。
この、俺と先輩のグズグズで残念な爛れた関係を最初から知ってくれている人物は、共に過ごした時間の多いバスケ部のチームメイト内でも極々僅かで。その中でも特にお世話になっているのが、今こうして目の前で呆れながらも笑ってくれる眞木先輩だった。
「でもさ、なんか心境変わったんだろ?」
兄貴みたいで、いっとう頼れる先輩は、誰よりも鋭い。
「おっ!流石マッキー先輩」
「マッキー言うな」
「え~」
「うわ、究極に可愛くねえ」
ゆっくりと伸びて来る手のひらに甘えて、目蓋を下ろす。こうやって、眞木先輩はことあるごとに俺を甘やかしてくれた。その、優しさに。どれだけ救われていたのかも。きっと先輩は知らない。
俺だって、最近まで知らなかった。
「あの、ですね」
「ん」
「俺、加々美先輩と別れようと思うんです」
くしゃり、前髪を乱していた指先が止まる。
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