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「お前、さっきアイツ死ぬっつったじゃん」
「うーん、まあ。そうなんですけど」
俺にだって、限界ってもんがあって。
そう、こぼれ落ちてしまいそうになった言葉は、そっくりそのまま先輩が代わりに吐き出してくれるから。やっぱり、敵わないなあ。
「最近ね、浮気の質?ってやつが変わってきたんですよ」
「……なんだよ、それ」
「へへっ」
素面の時でも、浮気をするようになった。不特定多数ではなく決まった相手との行為を繰り返すようになった。今まで機能していなかった筈のスマホが最近ではやけに忙しない。そして、なにより。
最初に先輩の浮気に気付いた時。あの時、あの話し合いで、一つだけ約束した事がある。俺達の部屋にだけは連れ込まないでと。
それを、守らなくなった。
「流石に、俺ももうキツイです」
「うん」
「平然と女の人と寝て、笑って、俺には飲み会にすら行かせてくれない」
「……クソだな」
「正直、もうあの人が死のうがどうしようがどっちでも良いです。よく、なりました」
「そっか」
「はい。だから、もう、バイバイします」
加々美先輩と出会って四年。付き合ってニ年と少し。
楽しかった思い出も、幸せだと感じた時間も。全部、ぜんぶ、何処かへと消えた。本当はずっと苦しかった。先輩、やっぱり女の人が良いんじゃないかなって。なんで、俺なんだろうって。
考えれば考えるほど、加々美先輩の気持ちが解らなくなった。それでも、どんな仕打ちをされたとしても。――好きだった。
「……っふ、」
大丈夫、きっと先輩は俺と別れたってもう死なない。漸く見つけた本命の彼女ってやつと、これからは上手くやっていくのだろう。いつの間にか、浮気相手になっていたのは俺の方だ。
バカだよなあ、ほんと。
加々美先輩は俺の事が好きで歪んでしまったんじゃなくて。端から、愛情表現がオカシイ人だっただけだ。それに気付きもしないで、僅かな可能性に縋って。信じていた俺がバカだったんだ。
「まあ、一回ぐらいは一泡吹かせてやりたかったですけど。生憎、俺は加々美先輩と違って浮気とか興味ないですし。第一、正直もう女の人と……そういう事が出来る気がしないというか、なにより俺が浮気とかしたところで、あの男なんとも思わな――」
そこまで呟いて、流石に赤裸々すぎたなと口を噤む。ついでに、誤魔化しの気持ちを込めて首筋も掻いた。ほんと、俺、眞木先輩に甘え過ぎ。最後のは愚痴の延長って事で軽く流して貰おう。
気取られないように、本音を隠すように。緊張感なく笑えば、暫く押し黙っていた先輩の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「なあ、女とできないってんなら。俺とヤってみるか?」
「…………え?」
「本当にあのクソ野郎がなんとも思わないのか、試してみるかって聞いてんだよ」
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