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Case2. 男前兄貴肌先輩×純粋素直後輩
最初に嘘を吐いたのは誰からだっけ。
*
「ちょ、あの、眞木先輩!」
やばい。やってしまった。俺の軽はずみな言動で大切な先輩を振り回すだなんて。絶対にあっちゃいけない。なにより、極めてノーマルな先輩をこちら側に引き摺りこんではいけない。頭ではそう思うのに。いいからと強引に引かれた手を振り解く事は出来なくて。
眞木先輩の手、あったかいなあとか。相変わらず、瞬発力えぐいなあとか。最早現実逃避にも似たそれを。結局、見慣れたアパートの前で解放される瞬間までぐるぐると頭の中で曖昧に巡らせていた。
ああ、ほんと、俺のバカ。
「あ、あの、」
「お前、やられっぱなしで良いのかよ」
「!!」
キッと睨まれ、思わず口がへの字になる。
(いい、わけない)
それでも、どうしようもない事だってある。俺は、どんなに頑張っても女の人にはなれない。セックスは出来ても、加々美先輩の子供を産んであげる事は叶わない。結婚だって簡単には出来ない。
だから、浮気するんじゃないかなって。だから、
「先輩、浮気するんでしょ」
会話の繋がらない、めちゃくちゃな言い分。けれど、一度吐き出してしまえば。もう止められなかった。だって、本当はずっと、
「すごく怖かった!加々美……せんぱい、が、浮気する度……やっぱり女の人の方がよくなるんじゃないかなって、そう思って、でも、でも…!俺のところに帰ってきてくれる内は信じようって、」
「穂波」
「だから、嫌な奴にならないように……平気な振りして、笑って、冗談交じりに……許して、それで……」
「ほーなみ、」
不意に、優しく絡め取られた小指。
「っ、うぅ、あ……」
「大丈夫、大丈夫だから」
「……まき、せんぱ……あの、人、結局……っ…女の人を、選んだ…やっぱり、男の俺じゃ、なくって……女の、ひと」
出来る事なら、こんな風にみっともなく泣き叫んで伝えてみたかった。もう浮気なんてしないでくれって。俺のこと好きなんじゃないのかよって。本音を、ぶつけたかった。ぶつけて欲しかった。
「穂波、鍵出せ」
「……っく、……は、か、かぎ?」
「お前、やっと泣いたな」
いつの間にか、ゆるりと回されていた腕に鼻先を埋める。すん、と空気を吸い込めば、懐かしい匂い。眞木先輩の匂いだ。
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