新聞部活動日誌⑤ 方向性(柔道部)

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「全員未経験者なのですか」 「はい。そうです」 「しかし、中学生ならともかく、高校生だと、結構なハンデがあるのではないでしょうか」 新入記者は柔道部の取材に来ていた。 表向きは、単なる部活内部の掲載記事を書くためだが、本当の目的は違った。 「負け続けている?」 「そう。うちの柔道部は三年前の暴力事件以降、試合で負け続けている」 いつものように、今回はお茶を飲みながら、新入記者と部長は会話をしていた。 「でも、原因は、その暴力事件じゃないのですか。今更、記事にする必要はないように思えますけど」 「確かに、それも一理ある。しかし、ここに見過ごしてはいけない事実がある」 「何ですか」 「謹慎期間は一年。その間も部員たちは基礎トレーニングを怠らなかった。しかし、謹慎明けから、がらりと、トレーニング内容が変わったらしい」 「つまり、部長は、そのことで原因かもしれないと」 「そうだ。無いとは思うが、何か違法な内容のトレーニングをしていたら、学校の傷になる」 「そこで、取材と偽り、調査をしてくれ、と」 「よく分かっているな」  もしかしたら、薬物を扱ったトレーニングということもある。  だからこそ、慎重に行動してくれということだった。  護身用として、お守りを貰った。 「精神トレーニング?」 「はい。謹慎明けに取り入れています」 「それは具体的にどんなトレーニングなのですか」 「そうですね。資料映像を見て、試合で勝つイメージを固めるトレーニングになっています」 「なるほど。でも、どうして、そんな取り組みを行っているのですか」 「ご存知の通り、暴力事件でほとんどの部員が退部となり、結果として、素人部員だけが大半を占めるようになりました」 「確か、以前は、未経験者はお断りだったとか」 「はい。しかし、その結果、軋轢が生まれることになりました。そこで、今度からはそんなことがないように、形だけでも良いから、柔道に興味を持って貰えるようにするために、イメージトレーニングを取り入れました」 「成程」 おそらく、このトレーニングが負け続けている原因で間違いないだろう。 しかし、聞いた限りでは、そんなに間違ったことをしているようには思えないのだが。もっと深く聞いてみよう。 「あの、すみません」 「はい、何でしょう」 「そのトレーニングの様子を見せていただいてもよろしいでしょうか」 「勿論」 すると、キャプテンは乱取りの練習を中止して、スクリーンと映像端末を用意し始めた。部員たちは全員正座して、スクリーンに集中していた。 「えっと、何を流すのですか」 「ふふふ。これです」 部長は新入記者にDVDを渡した。 そのタイトルは『少林寺』と書かれていた。
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