0人が本棚に入れています
本棚に追加
「全員未経験者なのですか」
「はい。そうです」
「しかし、中学生ならともかく、高校生だと、結構なハンデがあるのではないでしょうか」
新入記者は柔道部の取材に来ていた。
表向きは、単なる部活内部の掲載記事を書くためだが、本当の目的は違った。
「負け続けている?」
「そう。うちの柔道部は三年前の暴力事件以降、試合で負け続けている」
いつものように、今回はお茶を飲みながら、新入記者と部長は会話をしていた。
「でも、原因は、その暴力事件じゃないのですか。今更、記事にする必要はないように思えますけど」
「確かに、それも一理ある。しかし、ここに見過ごしてはいけない事実がある」
「何ですか」
「謹慎期間は一年。その間も部員たちは基礎トレーニングを怠らなかった。しかし、謹慎明けから、がらりと、トレーニング内容が変わったらしい」
「つまり、部長は、そのことで原因かもしれないと」
「そうだ。無いとは思うが、何か違法な内容のトレーニングをしていたら、学校の傷になる」
「そこで、取材と偽り、調査をしてくれ、と」
「よく分かっているな」
もしかしたら、薬物を扱ったトレーニングということもある。
だからこそ、慎重に行動してくれということだった。
護身用として、お守りを貰った。
「精神トレーニング?」
「はい。謹慎明けに取り入れています」
「それは具体的にどんなトレーニングなのですか」
「そうですね。資料映像を見て、試合で勝つイメージを固めるトレーニングになっています」
「なるほど。でも、どうして、そんな取り組みを行っているのですか」
「ご存知の通り、暴力事件でほとんどの部員が退部となり、結果として、素人部員だけが大半を占めるようになりました」
「確か、以前は、未経験者はお断りだったとか」
「はい。しかし、その結果、軋轢が生まれることになりました。そこで、今度からはそんなことがないように、形だけでも良いから、柔道に興味を持って貰えるようにするために、イメージトレーニングを取り入れました」
「成程」
おそらく、このトレーニングが負け続けている原因で間違いないだろう。
しかし、聞いた限りでは、そんなに間違ったことをしているようには思えないのだが。もっと深く聞いてみよう。
「あの、すみません」
「はい、何でしょう」
「そのトレーニングの様子を見せていただいてもよろしいでしょうか」
「勿論」
すると、キャプテンは乱取りの練習を中止して、スクリーンと映像端末を用意し始めた。部員たちは全員正座して、スクリーンに集中していた。
「えっと、何を流すのですか」
「ふふふ。これです」
部長は新入記者にDVDを渡した。
そのタイトルは『少林寺』と書かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!