傷だらけのアイシングクッキー

10/27
前へ
/27ページ
次へ
✳︎✳︎✳︎ 「確かこの辺りにメグちゃんからお借りしたスペアの鍵があるはずです」  僕はといえば里依さんに鎖で繋がれたまま隣の304号室まで引き摺られている。四月の酔っ払い事件のときにも見たことがある、里依さんの私室だ。 「あっ、そ、その脱ぎっぱなしの服は見たらダメなんですから!」 「僕は何も見てない」  僕は絶対に里依さんのもこもこホットパンツのパジャマがテレビの上に掛けられていたところなど見ていない。「今月の目標! 3kg痩せる!」とA4用紙にデカデカと書かれた手書きの文字が貼られているところだって何も見てはいないのだ。  顔を真っ赤にしてプルプルしている里依さんが視界を塞ぐようにぴょんぴょんと跳ねる。抗議のつもりだろうが、僕の身長からでは全く効果がない。 「僕の部屋は毎回見てるくせに」 「緒方さんのお部屋はモデルルームだからじっくり鑑賞OKなんです! 猫の置物最近置き始めましたよね! じゃなくて! こっちの部屋を探しますよ!」  いつから僕の部屋がモデルルームになったのかは聞かなかったが、里依さんは案外僕の部屋をよく見ているらしいということはわかった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加