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「えぇっと、確か寝室にーーあっ」
僕の動きがワンテンポ遅かったのか、里依さんの手錠がグッと引っ張られた。
「ごめん。これ、不便だね」
「いえ、元はと言えば私のせいですし。メグちゃんに教わった完璧なハロウィン大作戦だったのですがまさか鍵が違うなんて」
里依さんによると手錠のセットごと従姉から借りたらしい。どうして従姉が手錠を持っているのかについては深くは考えたくはないが、これは本人に開けてもらうか、手錠自体を壊す他ない。
(それも含めて従姉の策略な気がするんだけど)
里依さんの従姉はかなりの曲者である。渡された鍵が両方とも偽物でもおかしくないぐらいだ。色ボケしているため「アクシデントをキッカケに結婚!」なんてものを本気で狙っている可能性だってある。
(これがもし里依さんの考えていた通り手錠で捕まえたのが真とだったら、今頃里依さんと真がずっと近くに居たのかもしれない)
そう考えるとモヤモヤする。
彼女が真のことが好きなのはよく知っている筈なのに、自分の恋心に気がついてからはうまく言い表せない塵のようなものが心に積もっていく。
(真のこと、嫌いなワケじゃないのに)
高校からの付き合いの友人で、しかも様々な恩があるはずの真にこんな感情を抱いてしまうことが自分でも嘆かわしい。
そんな僕に里依さんがこんなことを言い始めた。
「でも、手錠で捕まえたのが緒方さんで良かったです」
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