傷だらけのアイシングクッキー

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 およそ半年前の僕ならここで素直に里依さんの言葉を受け取って少しは喜んでいたと思う。けれど、この約半年で学んだのは、里依さんの思わせぶりなセリフは実は全く恋愛的な意味はないということだ。 (僕だったら特に意識もしなくて良いから楽とかそんな理由だ)  特に異性として見られていないことについては、特殊なことがキッカケとはいえ一切の躊躇いもなしに寝室まで連れてこられてしまう今の状況が全てを物語っている。  僕がバイト先の先輩のように不埒な男だったら、今頃里依さんは無事ではないはずなのに。 「緒方さんと一緒に居ると安心しますからね」 (ほら、やっぱり)  里依さんのこういう態度に僕はいつも複雑な気分になる。どうせ、僕は安全圏のーー 「でも、流石にこんなに近いとドキドキしちゃいます。その、私今日は仮装とかしてますし」 「......えっ?」  あの里依さんからドキドキするなんて言葉が出るなんて思えない。里依さんは寝室横の棚を探すのに夢中なのか、僕とは顔を合わせずに言葉を続けているためその表情は見えない。 「あの、今日の格好あんまり似合ってないのかなって。いつもなら可愛いって言ってくれるので、私、待って......たんですけど」 「.......。」 「わ、私、緒方さんに可愛いって言われるの、割と嬉しかったりする......ので、言って欲しいかなと。最近、あんまり言ってくれないし......」
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