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「動いたらダメですからね」
「......。」
僕は今二つの意味でどんな顔をしているのだろう。手錠で里依さんから逃げられなくされてから、里依さんは僕の顔にゾンビメイクを施し始めた。
「ふふ、キョンシーは凶暴で仲間を増やしたがりますから」
「そんな設定いらない」
里依さんは案外凝り始めるとハマるタイプだ。カゴの中から取り出した血糊やパウダー、傷跡シールはどう見てもビギナー向けではないだろう。僕はといえば至近距離で顔をペタペタとされて気が気ではない。手錠で繋がれているのもあって、シャンプーの香りすらわかるぐらいの近さだ。
シースルーの袖が揺れると目で追ってしまいそうになって目を閉じた。僕だけがこんなに彼女を意識してしまっているのに、無遠慮に近づいてくるのは本当にやめてほしい。
おしろいを塗りたくりながら、里依さんは僕に小さな声で問いかけた。
「あの、緒方さん。私に何か言うべきことがあるんじゃないですか?」
「え......?」
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