傷だらけのアイシングクッキー

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傷だらけのアイシングクッキー

ーーこれはハロウィンの日の僕の失敗の話。  10月のイベントといえば、真っ先に思いつくのはハロウィンに違いない。来客を知らせるチャイムの音に呼ばれてドアを開けると、中華風の装いをした女性がカゴを持って立っていた。予想とは少し異なるその奇抜で派手な格好に僕は思わずたじろぐ。 「どうしたのその格好」 「ト、トリックオアトリートです!」  彼女は冴島 里依さん。僕のアパートの部屋の隣に住む社会人一年目の女性だ。そして、僕が好意を寄せている女性でもあるのだが、そんな彼女はもじもじとしながら仮装を披露していた。  いつもの僕であればここで平穏にお菓子を渡してお帰り願ったことだろう。何故ならばまだハロウィンパーティーには時間があるのだ。しかし、一方で今日の僕は里依さんがこの日この時間に一人で来たら言おうと思っていたことがあった。 「お菓子はないよ」 「えっ?」 「お菓子は、ない」 「えぇぇぇぇ!?!?」  正確には”まだ”ないである。最近では半分お菓子作りも趣味になりつつある僕がまさかお菓子を用意していないとは思わなかったようで、里依さんは露骨に動揺している。 「とりあえず、入って」 「あっ、はい。ありがとうございます」  隣に住んでいなければこの格好で訪ねられることはなかっただろうが、正直他の住人に好んで見せたい格好ではなさそうだ。
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