はなれる、はなれる。

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 ***  白猫には、エンと名付けた。ドルにエン、まあようするにお金繋がりである。小さな頃からお金が大好きだった。付き合うのも結婚するのも金を持っている男だけと決めている。学生時代からミスコンに選ばれるなど、我ながら美貌には自信があったものの、言いよってくる男には悉く恵まれなかった。ちょっと金払いがいいかと思ったら実は借金をしていたり、少しお金持ちっぽいなと思ったらウソをついて誤魔化していたり。  経済力のない男なんぞに用はない。自分は結婚したら今のクソみたいな仕事をやめて寿退社し、毎日夫の金で遊んで暮らすと決めているのだから。自分の能力を生かせる仕事を真剣に探したこともあったが、毎度のように人間関係でトラブルになったり、己の能力に見合わない給料で働かされたりしてうんざりしたのである。  どうせこの理不尽な社会では、自分のような美貌にも能力にも溢れた人間をちゃんと生かす仕組みなんてないのだ。きちんとした目を持った人間も存在しないのだ。だったら、もういっそそんな腐った社会になんぞ見切りをつけるのが一番いいのである。 ――さてさて、インスタに早速猫ちゃんの写真アップしましょーかね。  そんな私の唯一の楽しみは、インスタやツイッターに写真をアップすることだった。自録り写真だけでもかなりイイネやリツイートがついたが、ドルを飼ってからはさらにバズり率が上がっている。みんな、美女と猫の組み合わせには弱いのだ。見るたびに増えるイイネの数は、私に“自分が選ばれた人間だ”と教えてくれるのに充分すぎるものだった。  とはいえ、肝心のドルは全然私に懐かないし、躾をしてもまったく言うことを聴かない状態。捨てたら炎上しそうだけど、正直飼うコストと手間に見合わない――そう思っていた矢先のことである。  あの美しい白猫を見つけたのは。 「えーっとお、今日は道で、新しいお友達を拾ってきましたぁ」  私はスタンドに立てかけたスマホの前で、精一杯可愛い声を出して語った。 「じゃじゃーん、白猫のエンちゃんです。さっきとりあえずお風呂に入れてドライヤーしてあげたところです!段ボールに入れて捨てられてました。大人の猫になってから捨てるなんて、本当に酷いですよねぇ。私、絶対許せませーん!この子は、うちで大切に育てて幸せにしようと思いまーす!」
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