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そんな私の様子を、ドライヤーされてふかふかになったばかりの白猫がじっと見ている。その視線がふい、と別の方向に逸らされた。そちらにいるのは、やや離れたところに座っている黒猫のドル。そういえば、最近こいつをお風呂に入れるのを忘れてるなと気づいた。面倒くさいが、ほっとくとどんどん臭くなってそれはそれで不衛生だ。仕方ないから明日あたり入れてやるか、とうんざりしながら思う。
「今日は夜遅いので、明後日にでも動物病院に連れていきますー。健康チェックしてもらわないとね!それじゃあ、お休みなさーい」
短い動画だけ録って、ツイッターにアップ。インスタとユーチューブには、また別録りの動画をアップしようと決める。既に“ひめなさんこんにちは!白猫可愛いですね”などのリプがついていた。私は満足してスマホをスリープにする。私を盛り立ててくれる、大好きなフォロワーたち。ユーチューブの方ももう少しフォロワーが増えたら、多少なりに収益になってくれるはずである。
「ナ」
何か言いたげに、ドルがこちらを見ている。こんな夜中に遊んで欲しいとか言うんじゃないだろうな、と私は彼を睨みつけた。
「餌なら朝にたくさんあげてんでしょ、我慢しなさいよ。高いのよ」
せめて、子猫のように可愛らしく鳴けば自分ももっと優しくしてやろうと思うのに。苛立ちながらもエンを撫でると、彼女は喉をごろごろと言わせながら私にすりよってきた。
ささくれた気持ちが、一気に落ち着いていく。やはり猫とはこうでなくちゃ、と思う。
――やっぱり、タイミング見計らってドルの方は捨てようかしら。二年も我慢したけど、結局私に懐かないし。そうよ、勝手に脱走したことにでもすればいいんだわ。そうしたら私が悪いことにはならないでしょ。
脱走して車に轢かれたことにでもすればいい。そうすれば、むしろ他のフォロワーたちも同情してくれるかもしれない。
心の中でほくそ笑んだ時、手の中からするりとエンがすり抜けていった。そしてじいっとドルと顔を見合わせ、むにゃむにゃ、ふにゃふにゃ、と謎の猫語での会話を始める。
ドルはエンを相手に特に攻撃したりする様子はなかった。相手がメスだからだろうか。
――突然現れたよそ者は警戒しないのに、私には塩対応なわけ?ほんと可愛くないわ、こいつ。
私はふんっと鼻を鳴らして、二匹を放置したまま自分も風呂場に向かったのだった。
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