自業自得のチェリー

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 彼女が明らかに、僕の椅子から机を離すようになった。明らかに、僕から離れたいとでもいうように。教室の掃除の時、みんなで机を前に後ろにとずらして床掃除をするのだけれど、掃除当番が席を綺麗に並べ直すといつも彼女は自分の手で僕から少し離れたところに机をズラしていた。ほんの少し、ほんの少しくらいだけれど、他の机が綺麗に並んでいる中でそれはかなり目立っていたんだ。  そのくせ、授業中とか、やけに視線を感じるのである。僕がなんだか気持ち悪さを感じて振り向くと、彼女と視線が合いそうになって慌てて逸らされることも少なくなかった。そんな時、彼女はとても焦ったような顔をしていたのをよく覚えている。 ――彼女は、僕が嫌いなのかな。  実際班分けされた後も、彼女は僕と目を合せないようにしている印象だった。自己紹介の時も、授業中やたらこちらを見るのに、席をくっつけて向い合せている時は絶対にこっちを見ないのである。しかも、その時もさりげなく僕の机から自分の机を離そうとしていたのをよく覚えているのだ。  彼女のことを恋愛対象として見ていたわけではない。  それでも席替えはあと一カ月はしないとこのままだし、同じ班になったのだからグループワークをすることもある。できれば仲良くしたいし、僕は嫌われている理由を知ろうと頑張ってみたわけだ。  しかし本人に尋ねてもそっけない態度で“別に”と言われるだけなのは目に見えている。というか、僕みたいな根暗ぼっちが彼女に直接話しかける勇気なんてあるはずもない――というか、授業中で用がある時以外に話しかけると、他の友達数人が間に立ちはだかって“用がないなら高松さんの傍に寄らないでくれる?”なんて冷たいことを言ってくるから余計に無理だった。 ――なんだよ。他の男子が近づいたらそんなこと言わないくせに、僕が何したっていうんだ。  彼女の奇妙な態度は、それからも暫く続いた。僕から離れたがるくせに、授業中でも休み時間でも、僕がそっちを見てない時はやたらとこちらに視線を向けてくる。そんなに何か言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに、と僕も段々うんざりとしてきたのだった。  丁度その頃、ぼっちの僕にも少しだけ話せる同性の友達ができるようになっていた。  ものすごい仲良しと言う訳ではないけれど、話しかけても嫌がらないでいてくれるかな、とか。困った時ちょっと頼ってもいいかな、と思うくらいの友達だ。僕が一方的に友達だと思っていただけかもしれないけれどね。  彼等の名前は日暮君と、黒沢君とでもしておこう。日暮君は友達がたくさんいる、スポーツタイプのイケメン。いつもぽつん、としている僕を心配して声をかけてくれるタイプだ。僕は運動が苦手だったので一緒にドッジボールとかはできなかったけれど、それでも彼と話すのは気分が明るくなって好きだった。
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