自業自得のチェリー

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 もう一人の黒沢君は、僕と同じようにいつも教室の隅で本を読んでいるタイプだった。たまたま僕が星新一を読んでいることに気づいて、話が合うかもしれないと思って声をかけてくれたのである。ものすごい会話が弾むわけではないけれど、時々本の感想を言い合うのはなかなか充実した時間だったように思う。  僕は二人に、高松さんのことを相談した。すると。 『うーん、高松さんなあ、俺はあんま好きじゃねえんだ、ああいいタイプ。俺が話しかけると嫌な顔はしないんだけど、なんていうか相手によって露骨に態度使い分けてる感じが、気分良くないっていうか。むしろ、お前から離れた方がいいかもよ。グループになっちまってるのはきついだろうけど一カ月もすれば離ればなれになれるだろうし』  これは、日暮君の証言。 『ボクも、あんまり高松さんとは話したことないからわからない。ボクが消しゴム落とした時に拾ってくれたこともあったから、嫌われてはいないと思うんだけど……』  これは黒沢君の証言。  消しゴム、と聞いて僕は思い出した。僕が前に鉛筆を後ろの方に転がして、高松さんの足元に落としてしまった時。彼女はなかなか拾ってくれなくて、心底嫌そうに僕を睨みつけてきたのだ。僕は困ってしまった。彼女の足元まで僕が取りに行ったら、スカートを下から覗くことになってしまいかねない位置だったからだ。  僕が本気で困って小声で頼んでいると、結局先生気付いて高松さんに拾ってあげるよう頼んでくれたのだが――その時の高松さんの嫌悪感に満ちた顔といったら。僕の鉛筆を、二本指で、まるでティッシュでもつまむようにして渡してきたのだ。その時は床が汚れていたのかな、と思うようにした。――何か嫌なことに気づいてしまいそうで。 ――やっぱり、そういうことなのかな。  ただ、それならそれで、僕にちらちらと視線を向けてくる意味がわからない。男性嫌悪ではない、のは日暮君の証言からしても然り。それなのに、彼女の取り巻きは僕だけをあからさまに彼女から遠ざけようとしているし。  僕が悩んでいると日暮君が少し言いづらそうに言ったのだった。 『あのさ……しばらくお前、教室や廊下じゃ、俺か黒沢か先生の傍にいた方がいいぜ。それと……頭の上に気を付けるといいんじゃないかな』  それは。  殆ど、答えを言っているようなものだった。
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