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最初は悲しかったのが、段々と怒りに変わってきた。彼女が何をしようとしているのか気づいてしまったし、その原因にも薄々気づいてしまったからだ。
だからある日僕はわざと教室で一人になって高松さんさんを呼びとめたのだった。
「ねえ、高松さん」
「ひっ」
彼女はお化けでも見るような眼をして僕から逃げようとしたけれど、僕は思いきり彼女の腕を引っ張って捕まえた。悲鳴が上がった次の瞬間、教室の入り口付近に立っていた僕らは――二人一緒にずぶ濡れになった。
「きゃあああああああっ!?」
「な、何?何?」
「水?ば、バケツが……」
僕はちゃちな悪戯が、教室の入り口に仕掛けられていることに気づいて、わざと彼女を捕まえたのだ。僕が狙われると同時に、彼女も水を浴びるように。まあ、僕の方が濡れたのは確かだけど。
「や、やめてよ、離しなさいよ!」
彼女は濡れたことより、僕に腕を掴まれている事の方から逃れようとしていた。真っ青な顔になりながら。
「何でそんなに僕を嫌うの!」
僕も、もうこうなったらはっきり言うべきことを言わせてもらおうと思った。
「いつも僕から不自然に机離そうとしたり、そのくせ僕の鉛筆をゴミみたいに扱ったり!僕が君に何をしたっていうんだよ!」
確かに僕はやせぎすだし、彼女みたいに綺麗な顔もしていないけれど。だからって不衛生にしているつもりはない、ただの人間だ。それなのに。
「しかも……しかも、友達に命令して、僕に悪戯するチャンスをずっと狙ってたんだろ!僕がずぶ濡れになったら理由つけて堂々と離れられるとでも思った?不潔な人と離れたいからって言っても許されると思ったの?」
「……ええ、そうよ!それの何がいけないの!」
彼女は力任せに、僕の腕を振り払った。そして病的に、ハンカチでごしごしと僕に捕まれた袖を拭い始める。自分の髪の毛や服が、バケツの水で濡れているよりも先に。
「気持ち悪いのよあんた!何もかも何もかも何もかもきもい!半径50メートル以内にいてほしくないし視界にも入れたくない!いじめにでも遭ったと思い込んでくれれば、不登校になって学校に来なくなると思ったのに……!」
人間の悪意は、時に僕達が思っているよりずっと残酷で恐ろしい。彼女は“なんとなく”僕が生理的に受け付けなかったから避けていたというわけだ。僕としては、とても承服できる理由ではなかったけれど。
その生理的嫌悪を埋めるために、僕が一人になったタイミングで、友達に頼んで水をぶっかけようとしていた。だからいつも、ちらちらとこちらを見て合図を出す隙を伺っていたのである。
まあ、授業中に見ていたのは、気持ち悪いから動向を監視したかったという理由なのかもしれないけれど。
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