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「えーとね、言いにくいからだまってたけど、いっちゃんはちょっと気にしてほしいんだ。チカが言ってるのは、おむかえのことだけじゃなくてね。いっちゃん、先週の社会科見学にもなぜかいっしょについてきたでしょ? 生徒だけで参加の行事にお兄さんが来るのは、こまるの。やめてほしいの。チカ、ちょっぴりだけど、はずかしい」 「恥ず、かしい? まさか、俺のことが、か? え? 俺、お前にとって恥ずかしい存在ってことか?」  その日一番のショックな言葉が壱琉の頭蓋を震わせた。  それまでの彼の人生で一度も言われたことがないワード、〝恥ずかしい〟。その5文字が巨大化して自分を押し潰しにかかってくる幻覚に膝の力が抜けそうになる。  この日までに積み重ねてきた鼻持ちならない自信過剰エピソードがなければ内股でペッタリと地にくず折れていたかもしれないが、かろうじてそれだけは免れた。  しかし、ショックなことには変わりない。艶麗な容貌は蒼白。黒縁眼鏡の奥で、三白眼が頼りなく揺れまくる。  なぜ、こんなことに? 社会科見学に付いていって、何が悪い? 俺のチカの付き添いだぞ?  お前、運動会で一緒に参加したパン食い競争で一位を取った俺に、二回もほっぺちゅーをしてくれたじゃねぇか。  そのお返しに唇以外の顔中にキスを降らせた俺にドン引きするどころか、ぎゅーってきつく抱きついてくれたじゃねぇか。  あれが嬉しすぎたせいで彼氏面がやめられなくて社会科見学に付いて行ったことは認める。  が、それが原因で俺のことが恥ずかしいって言われるとは……何だ、それ。  心外だぞ!
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