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「あの時のアレが嫌だったのか。気づいてやれなくて悪かった」 「ううん、いっちゃんはわるくない。チカが、かってにいやな気持ちになってただけ。キレイないっちゃんにはキレイなお姉さんがおにあいだなぁって思ったら、かなしくて……すごくすごく、かなしかったから……」 「だから、校外の行事にはもう来てほしくないって思ったんだな?」  我慢できずに、壱琉はチカの言葉を引き継ぐ。  はっきり言って、チカの言う『キレイなお姉さん』が全く思い当たらない。  鉄道博物館で数人に話しかけられた記憶はあるが、それだけ。誰の顔も覚えていない。覚えているはずが無い。彼女たちは、壱琉にとって覚える必要の無い相手。  鉄道博物館での壱琉の目的は、たった一つ。チカを見守ること。  学校生活を楽しく送っている姿をつぶさに観察し、その一挙一動と可愛い表情を全て脳裏に刻む。合わせて、チカの愛らしさに良からぬ視線を送ってくる困った輩への牽制だ。  その重要な仕事を邪魔してきた女性たちにひどく苛立った記憶ならあるが、ひと睨みして無視で終了した相手のことを覚えているわけが無い。  が、社会科見学当日の一連の出来事がチカにとって『すごくかなしかった』のだと知った今、壱琉がすることは決まっている。 「俺のせいで、悲しい思いをしたのか? 悪かった」 「いっちゃん……」 「悪かった。許してくれ」  唯我独尊、傍若無人。謙虚とはまるで縁が無い男が、何の言い訳もせずに小さな幼馴染に謝罪を繰り返すのだ。
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