終劇

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「これで大体纏められたかな?」 「先生、進捗どうですか?」 「もう終わったので、後は印刷所と出版社の皆さんにお任せします」 "先生"と呼ばれた青年は柔らかく微笑む。 少しだけ長い髪を緩く纏めているのも、この青年の性格を表しているようだ。 「先生は地域の文化の歴史を研究しているんですよね?確か風土記を研究の資料にしているとか。けど、今回は何だかファンタジックですね」 「そうかな?でも、みんなが分かりやすい文章の方がいいでしょう?学術用語を使われても、それを何度も読むのはきついだろうし…」 「なるほど。じゃ原稿ありがとうございます!印刷に回しますね!」 男はそう言うと勢いよく部屋を飛び出していく。 バタン!と大きな音を立てて、重厚な扉が閉まる。 「僕は作家じゃなくて、民俗学の助教授なんだけど…分かってもらえなかったかな…」 青年は軽く溜め息をつくと、窓を開けて、柔らかい中にまだ冷たさを含んだ初春の風に目を細める。 「もう、あれからどれくらい経ったのかな?あの村は沈めてしまったし、民はみんな魚に戻った後、僕が全部食べちゃったから…何も残らないよね」 軽やかに笑う青年は、どれだけ時間が経とうと、どれだけ時代が変わろうと、ただ一つのことを願っていた。
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