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薄暗い洞窟の奥で異様に髪の長い青年は魚達と戯れていた。
どちらかといえば、魚達が青年の手や足に群がって遊んでいた。
「よしよし、みんな元気だね。最近は海難事故がないから、誰も村に行けないね…」
そう言った後に魚達は全て水の中に深く潜り、物音は何一つ聞こえなくなった。
「招いた覚えのない者がきたね。反抗期なら村でひっそり暮らしていればいいのに」
静まり返った空間に青年の柔らかながらも嫌みを含んだ言葉が響く。
「ここは禁足地…。禁足地では殺生もここの物を食すことも持ち帰ることも禁じられているのに、無作法者は少しお仕置きしないとダメかな?」
青年はニヤリと口元を歪めて、何もない空間を見つめる。
まだ聞こえなくても見えなくても、全てを視認できる彼は、ここにきた無作法者の姿をしっかりと捉えた。
そして無作法者と認識した青年がやってきた。
全てを知りたいだけの青年は、遂に禁忌とされる最奥に辿り着き、それに触れようとしていた。
青年は一つだけ掟を破った。
──竜神が定めた日より前に魚を食してはならない──
堂々と禁足地で魚を取り、そして禁足地で火を起こし、魚を焼いて食べていた。
脂の乗った丸々と太った魚は、何とも言えないほど美味で、掟が馬鹿らしくなるくらい、無作法者の青年を魅了したのである。
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