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プロローグ
「すみませんっ、もう逆らいませんからっ。」
「んなことはどーでもいいんだよ。」
「すみませんっ、すみませんっ、うぐっっ、」
情けなくも謝り倒しながら地面に蹲っている男の脇腹につま先を叩き込んだ。
男は呻き、蹴り飛ばされた衝撃で仰向けになり、大の字で空を仰ぐ。
片腕を踏みつけ、軽く喉にもう片方の足を乗せた。
男の顔が引き攣り、呼吸を荒くする。
抗うために暴れるべきか、俺を逆撫でしないように大人しくしておくべきか。
必死に考えているのが見て取れる。
生唾を飲み込んだ喉仏が少しだけ俺の足を上下させた。
毎日が退屈で堪らない。
俺の足元で怯えるこの男の顔を見たところで楽しくとも何ともない。
対峙して数秒。
この男は俺に恐れおののき、蹲って許しを請い始めた。
自分から仕掛けてきたくせに。
この俺に勝てる訳が無いのに。
「暇つぶしにもならねぇ雑魚が俺に勝てると思ってんのかよ。いい加減殺すぞ。」
刺激の足りない日々に苛立ちが止まらない。
喉に乗せた足に少し力を込める。
男の顔が一気に恐怖に塗れた。
殺されるかもしれない恐怖に、防衛本能が空いていた片腕を動かす。
その腕が俺の足首を掴もうとした瞬間、俺は足を引き、顎に目掛けて一気に振り上げる。
男の口から赤い飛沫が舞い上がった。
「あーあ、やり過ぎなのねーん。」
俺の後方で呆れた声が聞こえ、男の腕が力なく地面に落下するのを尻目に振り返った。
そこには腕を組んで溜め息をつく、俺の右腕である市瀬智と、誰かと大事なやり取りをしているのか携帯を忙しなくつつく久我亮の姿。
「勝者、火神颯斗！」
傍で旗を持って見守っていた男が俺の名前を高らかに叫んだ。
それを合図に、俺の対決を見に来ていた野次馬たちが飛び上がって歓喜の雄叫びを上げ始める。
俺はその喧騒に背を向け、側近の二人の元へ向かう。
「あそこまでする必要あった？」
「暇なんだよ。毎日毎日。クソつまんねぇ対決に苛立たねぇ方が無理だろ。」
そう言いながら二人の間を通り抜ければ、何も言わずに後ろを着いてくる。
毎日毎日、何も起きない日常が苦痛で堪らない。
俺に恐れおののき、跪く雑魚しかいない。
泣き喚いて許しを請う腑抜けしかいない。
俺を楽しませてくれるやつがどこにもいない。
こんな日常、いっその事捨ててしまいたい。
それでも、この中に身を置かなければならない。
約束だから。
謙兄が俺に残した、最後のチャンスだから。
この日常がどれほど苦痛であっても、俺は逃げることを許されない。
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