不倫解禁

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人々の恋愛観が少しずつ変わり始めたのは、 メディアに露出する芸能人を中心に、世間で不倫が頻発し始めてからだった。   やがてそれは国の法律をも変えてしまう。 20XX年。 この国では、不倫はむしろ歓迎されるものになっていた。というかもはや不倫という言葉すら使われなくなり、ただ単に「自由恋愛」と呼ばれていた。「人間の恋愛感情を縛り付けるのはよくない、自然体であるべきだ」という道徳的観念の元、人々の思想にもうすっかり浸透していた。そもそもずっと一人の人を愛し続けることのできる保証なんかどこにもない。人の心は移り気なものだから。 ところが聖夜(せいや)は「一人の人を死ぬまで愛する」という血筋に生まれた。この国でもごくまれな血筋に生まれ落ちた聖夜は、自由恋愛の横行するこの世界になじめぬまま、その年の夏に初めて結婚。妻の名は澄(すみ)。恋愛結婚だった。 ※ 結婚して二年目に入ると、早くも澄は別の男と関係を持つようになる。相手は会社の同僚だった。浮気のことでコソコソする必要のないこの世界で、澄は今朝も「仕事の後、男と会ってくるから帰り遅くなる!」と、楽しそうに告げると、聖夜を家に残して出て行ってしまった。 そんな毎日がどれだけ続いても聖夜は浮気をしなかった。澄一人の女性をそれほどまでに溺愛していたのだ。いや、そうするしか選択肢がなかったと言った方が正しいのかもしれない。そういう血筋だったから、どうしても浮気には抵抗があったのだ。結婚にいくつバツがついてもそれが常識としてまかり通るこの世界で、未だに離婚経験のない二人は、極めてまれな夫婦だった。   澄は、聖夜が一人の人しか愛することのできない血筋であることをいいことに、自由恋愛を謳歌した。というか最初から彼がそういう血筋であったことが、結婚の決め手だったのだ。澄はひそかに離婚経験がないことが誇らしかった。死ぬまで一人の人に愛されたかった。その優越感は何物にも代えがたかった。自分は他の男とよろしくやっているというのに、随分と都合のいい話だ。 そして迎えた十年目の結婚記念日。 澄:「聖夜……、私さ、この十年で数え切れない男と自由恋愛してきたんだよ。自由にさせてくれてありがとう。でも……、あなたもしていいんだよ?いくら血筋だからって気の毒で仕方ないわ」 聖夜:「結婚記念日おめでとう。俺は一生君しか愛さない。例え君がこれから何人の男と浮気しようとも、そんなの関係ないよ」 澄はあまりにも一途な聖夜の想いに胸を打たれた。同時にいくら世間に認められていようが、自分の浮気症について罪の意識を拭うことができなくなってしまっていた。そしてついに、もう他の男には近寄らないと心から誓うのだった。 浮気をして当たり前のこの世界で、二人が本物の愛を手にした瞬間だった。 一途な者は報われる。どんな世の中になってもそうあってほしいものである。    
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