身代わり聖女と奔放勇者の秘密の契約

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 うーん。その聖女ってのも大概だと思うぞ。自分で指名しといて、役目を放り出して逃げ出すなんて。最初から駆け落ちの算段を組むために、わざと問題のある王子を選んだ可能性まである。 「我々は、聖女を不慮の事故で失った時、異世界から支援者を呼び寄せるならいになっております。その召喚に応じてくださったのが、そなたなのです」  ずきん、と。  脳の奥が鈍い痛みを発したので、思わず頭に手をやる。  記憶に焼き付いているのは、今も鼓膜を震わせそうな、どでかいクラクションの音。そして赤信号を突っ込んでくるトラック。  ……ああ、これが異世界転生ってやつですか。  妙にあっさり納得がいって、あたしは司祭(たぶん合ってるだろうからもう仮はつけない)に向き直った。 「いいよ。あたしにできる事なら、聖女の代役でも何でもしてあげようじゃないの」  途端に、司祭の顔がぱああーっと明るく輝いた。「ありがたい!」とあたしの両手をがっしりつかんでくる。 「でもあたし、元の世界ではただの女子高生だよ? 聖女って、具体的に何するのかもわからないんだけど」 「おお、それなら心配は要りませぬ」  司祭は握ったままのあたしの手をぶんぶん上下に振りながら、満面の笑みで何度もうなずく。 「もう少し丁寧な言葉遣いで、ニコニコと立っていていただければ。聖女は神の御言葉を聞く存在などと言われていましたが、今ではその力は無く、形骸化しておるのです」  思わず「わあ」って一言が出てしまった。聖女は最早象徴にしか過ぎなかったのか。  こうなると、託宣ってのも怪しく思えてくる。当代聖女が逃げ出すためだけじゃなくて、ついでに王国の害にしかならない王子を死地に追いやるために、意図して指名した可能性もあるな。  そう考えた時。 「なるほど? ニルザーン神教会は、そうやって中身のねえ聖女を仕立て上げてた、ってわけか」  軽薄な、だけど誰も逆らえない威圧感を伴った男の声が場に飛び込んできて、司祭が恐怖に顔をひきつらせ。  ぎ、ぎ、ぎ、と。  壊れたロボットみたいな動きで背後を振り返った。
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