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「ア、アラン殿下!」
「無能だって自分でわかってんのにニコニコ笑ってろなんて、そりゃあ逃げ出したくもなるもんだ」
ずかずか近づいてきて仁王立ちになり、司祭を見すえるのは、二十歳くらいの男だった。燃えるような赤毛を短く刈り込み、黒い瞳は不機嫌に細められている。
こいつが噂のアラン王子か。顔は良いけど、いかにも「俺はダメです」ってかんじに、高そうな服を着崩して、悪ぶっている。
うんうんいるね、こういうの。反抗するのが格好いいと思ってる時期の男子。
「い、いつから……」
「俺が歴代屈指の放蕩王子ってあたりからか」
わはあ、結構前から聞かれてた。司祭が「ヒイ」って小さな悲鳴をあげて縮こまる。自分の国の王子を悪く言ったんだもの、首が飛ぶかもしれない。
だけど、王子は無礼を咎めはしなかった。司祭をスルーして、あたしを見下ろす。
「で? その乳臭い女が、代わりの聖女ってわけか?」
大きい手が司祭の手を引き剥がしたかと思うと、ぐいっと顎を引っ張られる。黒い双眸が至近距離に迫って、親父とも彼氏とも違う、一言で言えばそう、「男らしい」匂いが鼻に滑り込んできた。
「ガキだが、顔は悪くねえな。せいぜい聖女様ってツラして、俺を盛り立てろや」
かちん、と。
あたしの頭に嫌味の小石が当たった気がした。反射的に手を振り上げて、相手の手を叩き落とし。
ぱあん!!
めちゃくちゃ痛そうな音を立てて(実際あたしの手も痛くなった)、アラン王子の頬を引っ叩いていた。
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