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わかってしまえば止まらなかった。今まで麻痺していた寂しさと悲しさが一気に押し寄せてきて、あたしは、迷子になった子供みたいにわんわん泣き出した。
魔王も、彼の想いびとも、ただうろたえるばかり。あたしには、困った時に寄り添える相手もいない。次から次へと溢れる感情を爆発させていると。
ふわり、と。
たくましい腕が優しくあたしを包み込んで、ごつごつした慣れた感触が、くしゃり、と頭を撫でてくれた。
「なんだよ。泣きたいくらい寂しいなら、さっさと言ってくれりゃ良かったじゃねえか」
アランだった。「俺は意外と鈍いんだっての」と溜息を吐いて、先を続ける。
「勇者と聖女はな、魔王を倒したら結婚するしきたりなんだよ」
「……は?」
なんて? 今なんて?
突然告げられた話に、思わず泣くのを忘れてきょとんとしてしまう。
「それが嫌で、お前の先代は逃げ出したんだろうし、お前もことが済んだら元の世界に帰りたいんだと思ってたから、言い出せなかったんだよ」
それは、つまり。
あたしが唖然と立ち尽くしてる間にも、アランはうやうやしく膝をつき、あたしの手を取って、甲に軽く口づける。
「聖女カイリ。俺はお前が好きだ。聖女の演技をしてる時じゃなくて、演じない、そのままのお前が。だから」
国に帰ったら、俺と結婚してくれ。
続けられた言葉が、夢みたいに頭の中で反響して、くらくらめまいが起きた。
「ブラボー!!」「おめでとうございます」
魔王とその恋人は拍手喝采。魔王が、勇者と聖女のプロポーズの見届け人だなんて、王国のお偉方が聞いたら卒倒するのでは?
「で、でもあたし、大学受験も落ちたくらい頭良くないし、この世界じゃ後ろ盾も無いし、何より、本物の聖女じゃないし、全然あんたと釣り合わないよ」
自分でもよく出てくるな、とばかりにネガティブな要素を並び立てても、アランは不敵に笑うばかり。
「それはそれ、お前の演技力の出番だろうが。『聖女様』をやりきった勢いで、周りを騙せ。俺も共犯だ」
共犯。初めて出会った時に言われたのと同じ言葉に、あたしはもう、ぷっと噴き出すしかない。
「契約、まだ続く?」
「おうよ。一生もんだぜ」
おどけて笑いかけてみせれば、アランも会心の笑みを閃かせた。
勇者と聖女を演じた後は、立派な王様と王妃様を演じてみせよう。彼と一緒なら、何も怖くない。
あたしの心は、いつ以来かわからないけど、溢れんばかりの喜びで、ぽかぽか温まっていた。
ニルザーン神も、これくらいの演技は、許してくれるよね?
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