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「どうかお頼み申します! 聖女様の代わりをしてくだされ!」
突然知らない場所に立っていたかと思えば、テレビでよく見る司祭服みたいのを着たお爺ちゃんに縋りつかれて、あたしは。
あー、あれだ。宇宙猫。そんな顔になった。
「えーと」
ぽりぽり頬をかきながら、とりあえず質問を投げかける。
「どういう事情で、何であたしがそういうお願いされるのか、説明はして欲しいな」
それを聞いた司祭(仮)は、はっと目が覚めたかのような表情をして、それから居住まい正し、深々と頭を下げた。
「我々の事情に、異世界の貴女様をいきなり巻き込んでしまって、まっこと申し訳ない。ですが、この世界の命運がかかった一大事なのです」
おっと、何だかスケールの大きい話になってきたぞ。
あたしが先を聞く気になったのがわかったんだろう。司祭(仮)は真っ白な眉を垂れて語り出した。
「今、この世界は魔王率いる魔族によって侵略されようとしております。我が国の第一王子アラン様が、聖女様の託宣によって、魔王を倒す勇者として選ばれました……」
絶妙に微妙な間の後に、「ですが!」 と、司祭(仮)は今にも泣きそうな目で訴えかけてくる。
「アラン様はこの国の歴史中でも屈指の、放蕩王子! 勉学を投げ出して街を遊び歩き、昼間から酒をかっくらって、女子と見れば口説いてばかり! 次期国王の自覚もありゃしない!」
ほうほう。絵に書いたような、どこにお出ししても恥ずかしいヒメチャンならぬオウジチャンだな? というか、会社のボンボンとかじゃなくても本当にいるんだ、そういうダメな跡継ぎ。
「聖女は勇者と共に魔王打倒の旅に発つ定め。しかしながら、アラン王子の噂を知っていた聖女様は」
『節操の無い殿方と旅をするなど、心身の危険を感じます。わたくしは、わたくしを大事にしてくださる方と、穏やかに暮らします』
……と、置き手紙を残して、側仕えの騎士と共に出奔してしまったそうな。
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