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「変な事聞いていい?」と突然、由夏がレンズを覗きながら尋ねてきた。  中腰のまま、尻を突き出している由夏が妙に色気を感じる。下着の線がズボンに浮き出ていて、それが妙に意識を加速させた。 「ねぇ、聞いてる?」 「きっ、聞いているよ」 「あの時、急に来て驚いた?」  由夏があの時と指しているのは、由夏が店を訪ねてきた時の事を言っているのだろうか。 「まぁ、それなりにね」 「どうして私を泊めてくれたの? 訳も聞かずにさ」 「だってお前の家庭環境は散々、聞かされていたから何かあったんだろうなって。それに両親がたまたま旅行でいなかったからいいけど、いたらさすがに両親に相談したし」 「……そう」  たった一言のその返しが何だか妙に胸に突き刺さった。聞こえるか聞こえないかのか細い声。  空気が澄んでいたから余計に肌身で感じた。 「じゃあさ、私の事はどこまで憶えている?」 「……どういう意味?」 「何でもいいよ。私との思い出って何を憶えている?」  妙な質問に記憶を手繰り寄せる。由夏の質問の意味がわからなくなりながらも記憶を辿っていくと薄らと見える映像が出てきた。 「じゃあ、どうしてあれから河川敷に来なくなったの?」  由夏は覗いていたレンズから顔を上げて僕と向き直った。由夏が言っている河川敷。  微かに憶えているその状況は、確か由夏と初めて会った場所。薄らと見えた映像が河川敷の映像だと合点がいった。  互いに日々の生活に疲れを感じて利根川を眺めていた時、僕は由夏と出会った。  それから幾度も河川敷の芝生で利根川のさざ波と風を感じていれば、由夏がいた。    ただ、由夏が言っている事が僕の認識では矛盾している。河川敷に僕が来なくなった? 僕が行かなくなった? 行けなくなった? 思考の奥底に辿り着こうとすると、突然頭痛が襲った。思わず、膝を着いて頭を抱えた。 「どうしたの、ねぇ、大丈夫?」  由夏が僕の顔を覗き込んでくる。心配そうに見つめてくる由夏。 「……あぁ、大丈夫」  瞬間的に襲ってきた鈍痛。まるで誰かに鈍器で殴られたような錯覚に陥った。  この頭痛は前に由夏が店に訪ねてきて再会した時と似たような症状だった。 「……なんだかごめんね、変な事聞いちゃって。無理しなくていいから。誰だって言いたくない事の一つや二つあるよね」  まるで僕が悪かったような言い方が何だか、気に触った。  だから今度は前から気になっていた当たり障りない事を聞き返してやろうと思った。
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