18人が本棚に入れています
本棚に追加
「星哉さん、例の場所にこちらの方をお連れしたらどうですか? 時間的に今なら間に合うと思いますが」と春菜さんが何か星哉くんに伝えた。
「いっ、いや。さすがにそれは。それにチエさんが了承するとは思えないですよ」
「チエさんには私がこの後に連絡をしますので」
どうやら二人には何か考えがありそうだった。
すると星哉くんは渋々といった様子で頷くと須田さんに「お見せしたい場所があります」と話した。
須田さんがにやりと笑った後、星哉くんが先頭で店を出ると須田さんが跡を追う。
私が行く末を見ていると春菜さんが「由夏さんも一緒に行ってあげて」と言った。
「でも私が行った所で何も。それに仕事だって残っているし」
「仕事は私が引き継ぐから。それに由夏さんも見た方が色々都合が良いと思うの」
何の都合が良いのだろうと思ったけれど、春菜さんの押しに身を任せて、二人の跡を追うように店を出た。
少し先を歩く二人に追いつくと何やら話し込んでいた。
「……本当に死んだ人間が蘇るのか?」
須田さんがあとを追ってきた私をちらりと見た後に星哉くんに尋ねた。
さっき見た時より気のせいか須田さんの目が鋭くなっていた気がする。
ようやくお目当てのものが分かるからか活き活きとしていた。
「正確に言えば蘇るとは違います。多くの神話や宗教の考えであるように、例え亡くなったとしても霊魂は残ります。その霊魂を可視化させる事によって、まるで生き返ったように思われる方がいますが、実際には蘇っていないのです」
「その……どれくらい蘇っていられるんだ?」
「そうですね。大体、お帰りな祭が終わった頃でしょうか。お盆が過ぎれば呼び寄せた霊魂は、また黄泉の世界に戻りますからね」
その答えを聞いて明らかに肩を落とした須田さん。
淡々と説明する星哉くんは、何だか機械的で少し怖かった。
星哉くんを先頭に私達が向かっている先はどこかと思っていたが、見慣れた景色が前方に見えてきた。
いつか来た商店街のアーケードが前方に見える。
アーケード前の大通りの交差点で信号待ちをしていると、星哉くんに集る小学校低学年くらいの子供達が何やら星哉くんに話しかけていた。
『なぁなぁ、これからチエ婆ちゃんがすごい事やるんだってよ』
『俺ら、これから見に行くんだ』
それらを星哉くんはちょっと面倒臭そうに相手していた。
チエばあちゃんという人物がどんな人物か私は知らない。時々、耳にする程度の存在。勝手に物凄い力を持った、まるで映画やドラマに出てくる占い師のような仰々しい服装をしている人物が、脳内で作られた。
信号が青になると横断歩道を走ってアーケードを潜り抜ける子供達。私達もあとを追うように歩いて行った。
行き先がようやくわかってきた。恐らく、先日亡くなったメンチカツのお爺ちゃんの所なのだろう。
そのお爺ちゃんをチエさんが蘇らす。それを星哉くんは須田さんに見せに行こうとしているに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!