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案の定、暫く歩いていると人集りが出来ている場所があった。
そこは先日、救急車が来て人集りが出来ていた場所、星哉くんが小さい頃に通っていたメンチカツ店の前だった。
人集りはざっと、三十人くらい。その中を星哉くんと須田さんは掻き分けて進んでいく。
私もあとを追うと円の中心には、杖をついた七十代くらいの老婆が祈るように目を閉じて立っていた。
見窄らしい服装と言ってしまえば終わりだが、どこか見覚えがあるような既視感を覚えた。
恐らく、あの人がチエさんなのだろう。そのチエさんの前に女性と小さな女の子が両膝をついて合掌して頭を下げている。
まるで神様に祈るように。
須田さんに気付いた取り巻きの人達に星哉くんが「チエさんの了承はもらっています」と説明すると、取り巻きは渋々頷いた。
それで如何にチエさんなる人物が力を持った人かどうかわかった。
「……おい、何が始まるんだ?」
須田さんが小声で星哉くんに尋ねた。私も不安だった。
如何にも商店街に買い物にきたお婆ちゃんのような出立ちの恐らくチエさんなる人物を目の前に、取り巻きが固唾を呑んでチエさんを見守っている、この状況。
「霊魂が姿を現します。チエさんが今、呼んでいます」
「……嘘だろう?」
「本当に死んだ人が蘇るの?」
俄に信じ難い。俄に信じ難いが、心のどこかで信じてしまう自分がいる。
チエさんはただ、皆に見守られながら、ただ右手に杖をついて少し頭を下げながら祈るように目を閉じて立っているだけ。
それが五分くらいだろうか。その状態が続いた。
「……なぁ、悪いが俺は帰るぞ。こんな事実がある訳なかったんだ」
愛想を尽かした須田さんが星哉くんに告げて踵を返そうとした時だった。チエさんの足元から突如、眩い光が発光される。
「なっ、なんだ?」
「真実を……見て下さい」
私も眩しさに手で遮る。とても前が見える状況じゃない。やがて光が収まり、周囲のどよめきと喧騒音が収まる。
チエさんと小さな女の子とその女の子の母親らしき女性の間に水色のパジャマを来た老人が立っていた。
「ふぅ、成功じゃ。ご苦労さん」
チエさんが祈りを捧げていた二人の肩に手を当てた。
二人は間に立ってる老人に抱きついて「うっうっ、お父さん」と泣き叫び、「うわぁぁぁ、おじちゃん」と泣いていた。
「なっ、何じゃお前達。どうした?」
蘇った老人は状況を理解出来ていない様子だった。
戸惑っている老人にお構いなしに二人はチエさんに頭を下げると店の中に入っていった。
取り巻き達の拍手喝采。
その後、方々に散っていった。
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