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「今、お主は余計な誇りを捨てた。それはある意味ではもっとも誇りを高く保ったと言っていい。誇りを保つ為に誇りを捨てた。その結果、妻と娘に対する愛情が私を動かした。さぁ、始めようかの」    チエさんはようやくやる気を出したようで何やら斉藤さんに指示を出した。  斉藤さんは懐から財布を取り出すと写真らしき物をチエさんに渡した。 「これは家族三人で動物園に行った時の写真です」  泣きながら話す斉藤さん。思い出が詰まった写真だから常に持ち歩いていたのだろう。 「いいか? 迷い人を召喚するには蘇りを誰が望むかが大切じゃ。迷い人が望むか、生きている大切な人が望むか。その者が望むのであれば強い想いが必要となる」  斉藤さんは先程のメンチカツの店主を呼び寄せた時の妻と娘のように、両膝をついて祈り始めた。 「そしてこの場所は霊魂がもっとも集まりやすい場所。市外の霊魂を呼び寄せるには最適な場所という事じゃ」  斉藤さんが行方不明になった場所は市外の海。だからこの場所まで連れて来られたのかと合点がいった。  チエさんが両目を閉じて祈り始める。果たして、斉藤さんの奥様と娘様は迷い人として現れるのか。  現れなければ生きているという事になる。私にはどちらの結果も斉藤さんにとっては苦痛でしかないように思えた。  生きているのであれば、どうして半年も斉藤さんに会わないのか。連絡をとる手段はいくらでもあるはずなのに。  それとも会えない状況に陥っているのか。だとしたらどんな状況なのだろう。 「……なぁ?」  星哉くんが話しかけてきた。この場所に来てから口数が普段より少ない気がする。 「僕達にも僕達の事を大切に思ってくれている人っているのかな?」  らしくない言葉だなって率直に思えた。斉藤さんの事を見ていて心境の変化でも出てきたのか。 「少なくとも私は大切に想っているけれど……それじゃあ、駄目かな?」  星哉くんの答えを待たずして前方から眩い光が再び、私達を襲った。さっきと全く同じだった。  違うのはこの光が発するまでの時間。さっきのメンチカツ店主が召喚されるまでは数分あった。    でもこれは数分も経っていない。それだけ、ここの場所に強い力があるからなのか。  それとも斉藤さんの想いが強いからなのか。    光が和らぎ、視界が安定してくるとチエさんと斉藤さんとの間に艶やかな色合いの水着姿の女性と女の子の姿が見えた。  恐らく、斉藤さんが求めていた二人なのだろう。いずれにしろ、奥様と娘様の生死はこれではっきりした。 「うっ、うわぁぁぁーーー」  斉藤さんの雄叫びが大気を伝い、こちらまで届いてくる。滅茶苦茶な感情がその声にこもっているようだった。  歓喜と悲哀。希望と絶望。期待と不安。内混ぜになった斉藤さんには辛い現実に違いない。
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