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「あら、あなた? こんな所で何をやっているの……って、嫌だ。あれ、ここってどこなの?」 「ねぇ、パパ? この人達ってだあーれ?」  斉藤さんの心情とは関係なく、妻と娘はこの状況が不思議なのだろう。  水着姿で当たりを見渡したり、突っ伏して泣いている父親の背中に乗って遊んでいる娘。 「迷い人は死ぬ直前の記憶は無くなっているものだ。何かのきっかけで蘇る事があるかも知れないが、そこだけは注意するのじゃよ?」  チエさんの言葉に言葉を発さない斉藤さん。突然、目の前に突き付けられた現実。  愛する妻と娘が亡くなっていた重い事実に、斉藤さんはこれからどう向き合っていくのだろうか。 「お帰りな祭が来週に控えている。それまで三人で大いに楽しく過ごしなさい」 「……ありがとうございました」  絞り出た斉藤さんの言葉を聞いたチエさんがにっこりと笑顔を見せた。  そしてこちらにゆっくりと近づいてくる。 「これで良かったのか、星哉よ」 「ええ。お疲れ様でした。ありがとうございました」 「まったく、春菜のやつも無茶を言いおって」  首を回しながら疲れた様子を見せるチエさん。  ここに来る前に春菜さんが言っていた事はここまで見込んだ上での事だったのだろう。  星哉くんもわかった上でだったに違いない。 「……ところで星哉。こちらの女性は?」   鋭い視線を向けてくるチエさん。正面に捉えたチエさんの顔にどこか見覚えがあった。  思い出そうとしても遠い記憶の事のようで映像が脳裏に浮き出て来ない。  何故だろう、懐かしささえ感じる。 「あぁ、由夏って言うんだ。高校の同級生で」  星哉くんの紹介に倣ってチエさんに頭を下げた。  顔を上げるとチエさんは私を値踏みするように視線を離さなかった。 「……ほう。お主も迷い人か? どこから来た?」  不敵な笑みを浮かべるチエさん。そのチエさんの一言で空気が一変したのは明らかだった。 「えっ、ちょっとチエさん? 何を言っているんだよ」 「なんじゃ、星哉。知らんかったんか? この女の霊魂は間違いなく過去のものじゃよ」  星哉くんが明らかに取り乱している。まさかこんな展開が待っているだなんて予想だにしなかった。 「……嘘だろう」 「じゃが、わしがこの女を呼び寄せた記憶はない。いや、待てよ? もしかしたらーーー」 「なぁ、由夏? お前、記憶はどうだ。何か覚えている事はあるか?」  星哉くんが私の両肩を掴んで問い質してくる。その目にはうっすらと涙が溜まっていた。
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