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「ねぇ、ちょっと聞いている? 星哉くーん?」と僕の状況に対してお構い無しにシャッターを再び叩きながら呼ぶ、その由夏の傲慢さ。  あぁ、思い出した。思い出すと頭痛は和らぎ、仕方なしにシャッターを再び開けた。  目の前に姿を見せたのは、向かいに立っていたジャージ姿の女だった。 「ひっ、久しぶり? 元気だった?」    よく平然と言えたものだ。さっきまで人様の家のシャッターを叩いて僕を呼んだ無礼の後に平然を装えるもんだ。  特徴的な大きな目を光らせて、僕より少し低い身長から見上げてくる由夏。  悔しいけれど彼女のぎこちない満面の笑顔を見た瞬間、懐かしさを覚えた。    そこから由夏を一旦、店内に入れて応接室とは決して言えない古びたソファーに座らせた後に再び表のシャッターを閉めた。    手持ち無沙汰に座っている由夏にペットポトルのお茶を差し出すと、蓋を開けて勢いよく飲み干した。  さて、どうして由夏は突然僕を尋ねて来たのか、訳を聞かせてもらおう。 「あのさ、いきなりだけど星哉くんって今、何歳?」  全く予想外の質問が先に飛んてきた。 「……頭どうかしたか? お前と同じ十七だけど」  答えると由夏は何故か嬉しそうだった。その後も変な質問が立て続けに飛んできた。  カレンダーを見せろだの、テレビを見せてくれだの。まるで今を知りたがっている感じだった。  答えによって難しそうに考え込んだり、嬉しそうにしたり一喜一憂する表情を見ていると、深く尋ねる事を控えるべきか悩んだ。  彼女の今の生活を以前、聞かされていただけに何かあったのではないかと心配になってきた。 「……それで何かあったのか?」  僕の問いに俯いて塞ぎ込んだ由夏。  由夏は以前、ここに一度連れてきた事はあったが、それは両親がいた時だった。  今、両親が不在の時に来られても何が僕に出来るのだろう。 「私を泊めてくれないかな?」  顔を上げて答えた由夏の言葉は再び予想外だった。 「はぁ? お前何言ってんだよ。だってお前のとこの家はーーー」と言った瞬間、由夏の家庭状況を思い出した。  こいつはこいつなりに事情があったんだ。かといって同じ屋根の下に住まわせるのは流石にまずい。  春菜さんの冷徹な顔がすぐに浮かんだ。 「いや、でも流石にそれはまずいだろう? とりあえずお前のおじさんとおばさんに連絡しないと」 「やっ、やめてそれは」  力強く拒否してきた由夏。何かあったのは間違いなさそうだった。とりあえず明日、春菜さんに相談してみよう。 「向かいにある文具屋の上に部屋が空いている。隠れ家的に住んでいた部屋だから、そこを使えよ」  最初は親父が会社名義で倉庫として買った部屋だったが、今は僕が趣味部屋として使っていた。  一LDKの間取りだから十分だろう。鍵を渡すと嬉しそうにする由夏。 「腹、減っていないか? 商店街で買った惣菜ばかりだけど、これが結構美味くてーーー」 「食べるーーー」  食い気味に答えた由夏の目は輝いていた。  それから食事を済ませると由夏を連れて向かいの部屋を案内した。  特段、由夏に見られて困るものもない。というより僕の私物は全部処分したし、一通りの家具が揃っているだけだから問題はなかった。  ただ考えてみると、女性物の着る物は流石に揃えていない。 「明日、当面の生活に必要な物はこれで買ったら?」  一万円を由夏に渡すと申し訳なさそうに「ありがとう」と答える。  部屋を出て道路に出る。空を見上げると、満天の星空が僕を出迎えた。  道路を挟んでかつて想いを抱いた女性との奇妙な一夜を迎える事になった。
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