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「私は断固として反対です」
春菜さんの断固たる決意が昼の十二時の店内に響き渡った。
物静かそうな春菜さんが、これほど感情を露わにして意思を示した所を初めて見た。
由夏は僕があげた一万円を使い、商店街で買い揃えた服を身に纏い、店を訪れてきた。
いかにも中古品の皺が多い白のワンピースに黒のカーディガンを着て、店に恐る恐る姿を見せてきた。
店の手伝いをさせて欲しいと話す由夏の提案に判断出来ない僕は、春菜さんに由夏を紹介した。
由夏とは高校の同級生で彼女は親戚の家に身を置いているが、真面な生活をさせてくれていない事や由夏を邪険に扱っている事。
昨夜は向かいの部屋に泊めさせた事など要点だけ伝えた。
春菜さんは僕の説明中、由夏を値踏みするように見ていたが、時々不思議そうな、何かに困った表情を浮かべていた。
それで春菜さんのキラーフレーズが響き渡ったというのが経緯なのだが、さてどうなるか。
「高校はどうしたんですか?」
「……今は夏休みなので大丈夫です」
由夏と僕は同じ県内の高校に通っていた。由夏とはクラスが違ったが以前、由夏はいじめを受けていたと話していた。
引き取られた家の親戚は、ろくに対応してくれないと話していたのを思い出した。
「他に行く所が本当にないんです。給料とかいりません。向かいの部屋に住まわせて頂ければ、本当にそれだけで。それにわからないですけど、それほど長くはいない……いや、いれないと思うのでご迷惑はおかけしないと思います」
互いに睨み合う二人。女性同士、何か想う所はあるのだろうか。張り詰めた空気に僕は言葉を発せられなかった。
これでも一応、この会社の責任者の立場なのだが。
時間にして数秒経った後に春菜さんが「様子を見ましょう。何か不都合があった場合、星哉さんが責任を取るならいいのではないですか?」と春菜さんが折れた。
すると由夏の顔が明るくなり、互いに見合うとガッツポーズを取った。
早速、春菜さんが由夏に店の中の案内や電話の取り方、お茶の出し方などを教えた。
春菜さんはいたって効率良く且つ明瞭に由夏に教えていた。その様子を見ていると、来客があった。
どこかに見覚えがある人物。歳で言えば六十代くらいのどこにでも歩いていそうな男性。
特徴的な禿げ上がった頭皮と太い眉毛。来客を認めた春菜さんが動かしていた手を止めて速やかにその来客のもとへ向かった。
「わざわざお越し頂かなくてもよろしいのに、村山様」
「いやいや、何を言っているんだ春菜ちゃん。こっちから相談しているんだから、こっちから出向くのが筋だろう」
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