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私は離れたくなんかなかった。
もしかしたら、なんて。本当は、本音を言えば、ちょっと前から「予感」はあったけど。
それでも、大丈夫。まだ大丈夫。努力すれば、私が頑張れば、まだ間に合う、って……。
どうしてこんなことになっちゃったのかな。
どんなに願ったって、時は戻らない。
もう戻れない。どう足掻いたって、元には戻せない。
こんなお別れは悲しすぎるけど。
このままにしてたら、この傷は更に深くなるだけ。
「でも……どうして……どうして、そんなところから……!」
右手、親指。右の黄線ギリギリの爪先の縁。3日前に小さく欠けているのを見つけた。
元々爪が薄く、弱い方だったから。これ以上悪化しないよう、透明のベースコートを塗って応急処置を済ませていたはずだった。
次の日曜日は2週間ぶりのデートの予定。
「セルフネイル」「秋ネイル」「おしゃれ」を検索して、お気に入りのプチプラブランドの新色ネイルも買ったばかり。
気をつけていたはずなのに……!
デスクのペン立てから、15センチの直尺を取り。そっと爪先にあてて、裂け目の幅を測る。
……2ミリ……!!
この状態の爪を甦らせるなんて、私には無理だ、と。崩れ落ちそうになるのを必死で耐えて。
こんなもの、本当は使いたくなんか、なかったのにーー。
机の引き出しから、小さな爪切りを取り出した。
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