3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
重々しい扉の向こうは光あふれるチャペルだった。眩しさと美しさに、ほう、と思わず息を漏らす。
丘の上という立地のおかげで、ビルに視界を邪魔されることなく、冬の澄んだ青空が一面に広がっている。
「トワ・シェリール仙台」の最大の売りはこのチャペルだ。祭壇の向こうがガラス張りになっており、天の祝福のような光に満たされている。高い天井からはシャンデリアが繊細なきらめきを放ち、真っ白なバージンロードの両脇には豊かなグリーン、祭壇脇にはハープとオルガン。
「今日みたいに晴天ならいいけど、雨の日はどうなんだろう」
高槻くんにエスコートしてもらいながら、私はドレスの裾を慎重に蹴りあげ、ゆっくりと祭壇を目指して歩き出す。
「外が暗いと、シャンデリアがガラスに映り込んで、また違った良さがあるんですよ」
ネイビーのタキシードに身を包んだ高槻くんは、よそ行きの声を出して言った。「って、営業では言ってるみたい」
満面の笑みの女性スタッフが一人、祭壇の手前で待ち構えている。山内さんだ。おめでとうございます、と声を弾ませる様子に、ついニヤリと口角を上げてしまう。一通りの説明を丁寧に済ませたあと、山内さんはようやくいつもの悪戯っぽい笑顔を浮かべ「結ちゃん、似合うじゃん。高槻くんも」と言った。
結婚する前にウエディングドレスを纏ってしまうと本番が遠のく、なんてよく言うけれど。
写真映えを優先して選ばれたであろう、長い裾が印象的なシルクのドレスは、自分じゃ選ばなさそうで新鮮な気分だった。
「ではリハーサル前に、お二人、何枚かお写真お撮りしまーす」
明朗な声が響く。カメラマンの男性に誘導され、私たちは祭壇前に並んで立った。「新郎様、もう半歩、前へ!」「新婦様、ブーケを少し下げてみてください!」指示通りに姿勢を調整する。高槻くんの動きがぎこちなくて、何度も修正されるのを笑っているうち、照れくささが薄れた。
青空をバックに何枚ものツーショットを撮られる、私たちはカップルではない。
結婚式場「トワ・アマーレ仙台」で働く仲間だ。ここ「トワ・シェリール仙台」は、二ヶ月後にオープンする姉妹店である。
新しい式場がオープンする際には、必ずシミュレーション挙式が施行される。新郎新婦の誘導、ゲストの案内、料理の提供、すべてを本番さながらに行う、いわばスタッフのための予行演習だ。
全国各地の姉妹店から有志の社員たちが集まり、ゲスト役をする。
そして今回、新郎新婦役を務めることになったのが、同じ仙台の店舗に勤務する私たちだった。
最初のコメントを投稿しよう!