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帰りにコンビニに寄って、コーラとポテチを買った。
今日はパーティーだ。
茜がなんらかの事情により、おかしくなってしまったのだ。
昔は親友だったのにとても残念だ。
誰かに恨みでも買ったのだろうか。
かわいそうに……。
ベッドに横たわって苦しんでいる茜のそばで、頭を撫でながら、優しい言葉をかけて、慰めてあげたい、と切実に思った。
例えば──あなた程度の人間は、身体を売るしか社会の役に立てないの、私がいつまでも守ってあげるよ、とでも言おうかな。
でも、私は悪くないじゃん。
適当に、誰かの悪口を書いて、何の変哲もない一枚の布を切り裂いて、針とともに瓶の中に詰めただけなんだから。
著しく科学が発達している現代に、黒魔術のために精神がおかしくなることはないでしょ?
そんなことは幼稚園児でもわかる子はいるんじゃない?
でも常識的な考えがあるとすれば──神様はいたんだよね。
残念ながら茜の見方ではなく、私の見方だったという話。
見つかればの話だがハンカチを盗んだことだけは罪に問われるでしょうね。
でも、柄が綺麗だったから欲しくなった、今ではとても反省している、できることがあれば償いたい、と謝罪するから許してもらえる。
だって……、男は馬鹿だから、女の涙は武器になるんだよ。
「男は女が守るべき!」なんて主張する、脳筋もいるし、使えるものは何でも使わなきゃ!
部屋の中に入ってみると、いつもと様子が違う。
つい先ほどまで、誰かがここにいた感じがする。
もちろん普段と変わりないのだが、違和感だけが残るのだ。
疲れているだけかもしれない、思いながらパソコンの電源を入れると、お気に入りのユーチューバーが配信していた。
そして、ポテチを食べコーラを飲み、至福のときを過ごした。
今日は残念ながら「Madder」はいないようだ。
一緒に祝福してくれると思ったのに残念だ。
私が五百円のスパチャを送ると、その黒魔術系ユーチューバーの声が部屋に鳴り響いた。
「蛍光灯さん、おめでとうございます! 成功したようですよ。みなさんも祝ってください」
生放送のコメント欄には、蛍光灯というハンドルネームの人物──私の偉業を賞賛するコメントが書き込まれ、思考停止のまま、一万二千円の高額スパチャまで投げ銭するものも現れ、狂宴が繰り広げられていった。
★
数日後。
どういうわけか、足がうまく動かない。
こんなときに限って、母親がしつこく呼ぶ。
壁つたいに足を引き摺るように歩き、やっとの思いで一階のリビングに行き、母親の話を聞く。
茜のことで、何か知っていることはないかと聞かれた。
「茜とは中学になってから仲悪くなって絶交したんだよ。最近は口も聞いてないよ」と答えると、
「え、本当なの? だって前、茜ちゃんうちに来たでしょ?」
「なにか盗みにきたんじゃないの? あいつはそういうやつだよ」
「慶子、なにがあったの? 茜ちゃん、入院したんだって」
相変わらず母は私の話を聞かない。
「知らないよ。あの性格だから仕方ないんじゃない?」
私は母を侮蔑の眼差しで見るようになった。
そして手すりにつかまりながら階段を上っていると、心配そうに見つめる母の視線を背中に感じ、不快感を覚えた。
やっとの思いで部屋に戻ると、違和感の正体が姿を現した。
それは霊感のない私にもはっきり見えた。
部屋の片隅に座っている霊がいる。
ぼんやりしか見えないが、その周りの空気は陰鬱としたものだった。
そこに触れただけで危険であると、本能が警鐘を鳴らしている。
やはり「人を呪わば穴二つ」ということなのだろうか。
耐えられなくなったときには、両親に素直に話して、お祓いでも受けに行こうと思った。
私は少しだけ近づいて、霊の様子を見た。
ロングヘアの女子が体育座りをしているようだ。
上品な座り方ではあるが、色香で誰かを誘うように足を少しだけ開いている。
この霊の座り方は、私を著しく不快にさせた。
そして、ここ最近の流れを整理して全てを悟った。
茜は謝る体で家にやってきた。
私のいない時間を見計らって、彼女の部屋に侵入した。
私がベッドを確認していたときに、カバンの跡以外に、二つの跡が残っていたのは、茜がベッドに手をついて何かを探していたからだろう。
私の毛でも探して、黒魔術に使ったに違いない。
そして今こんなに足が痛い理由は明らかだ。
私が茜の右腕に呪いをかけたように、茜も私の足に呪いをかけたに違いない。足が狙われたのは、彼女が陸上部だったからだ。
だって、この呪いは、相手に生霊を送る魔術なのだから。
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