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十月になると、二週間だけ裏山の入山が解禁される。
タカシは毎年、そこで拾える栗を心から楽しみにしていた。裏山産の栗は野趣溢れる風味で、実が大きく、ほっくりと甘くて香り高い。
いや、ただそれだけではない。裏山の栗は異様に旨いのだ。もはやその旨さは栗の範疇ではない。肉や魚よりも人間の舌を喜ばせる何かを持っている。あまりにも旨いせいでこの町以外に流通しない。そんな栗で作る栗ご飯は、えも言われぬ味なのだった。
ただし、栗拾いに参加するには制限があった。年齢が十三歳であること、そして、一度に参加できる人数は十三名までだということ。子供しか拾えないというその栗を町の人々は求め、毎年中学生たちに拾わせていた。
「それでは、栗拾いの会に参加する人を決めたいと思います」
担任の言葉に、我こそはという挙手と叫びが殺到する。栗拾い係は、町に流す分さえ用意すれば、あとは個人で味わう分を好きなだけ拾ってもいいという特権があった。そんな役目を子供たちがみすみす見逃す訳がない。かくして、すべてを決めるじゃんけんが始まった。
「それでは、一日目の栗拾い係はタカシとアツキになりました。誉れある大事な役割です。みんな、拍手を」
タカシとアツキに拍手が送られる。勝ち残れなかった彼らは「ちぇー」とか「いいなあ」とぼやいていた。
タカシは口がにんまりするのを抑えきれなかった。毎年三、四回しか食卓に並ばないあの栗を、今年は好きなだけ拾うことができる。秋の間は毎日栗ご飯なんてこともできるかもしれない。家に帰って、家族に報告するのが楽しみだった。
「へいへい、ちゃんと拾えんのかー?」
そんな野次にタカシはしっしと手を振る。
「うっせー。裏山中の栗をとり尽くしてやるよ!」
「あはは、やってみろよ」
そんなやりとりをしていると、ふと、離れた席で立つアツキと目が合った。
「タカシ、頑張ろうね」
「おーぅ」
よりによって、こいつとかあ。
柔らかな笑みを浮かべる美少年に、タカシは内心げんなりしながら会釈した。
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