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誰もいなくなった禁足地は、放課後の教室に似た空虚な静寂に包まれていた。
そのがらんとした静けさが、少年の心を不安にさせる。ここは禁足地。その実感がじわじわとタカシを追い詰める。やっぱり、もう帰ってしまおうか。
「……いやいや、馬鹿か俺は」
ぶんぶんと首を振る。意気揚々と行って、やっぱり怖くて帰ってきましたなんて、みっともないにもほどがある。そんな姿をあいつに見られる訳にはいかない。それに何より、栗を持って帰らなければ、タダ働きじゃないか。
道の奥へと進み、栗が残っているエリアに辿り着く。腕時計のアラームは五十分に鳴るようにしてある。すぐに戻れば充分間に合うはずだ。
外れに気を付けながら、イガグリを籠に放り投げていく。他のやつらは十分な量の栗を確保していた。自分だけちょっとしかないなんて嫌だ。両手を使って効率よく栗を見極める。
アツキに外れを押しつけることに成功した。それを思い出すと胸がすっとした。今夜の栗ご飯はさぞかし旨いだろう。
ああ、早く食べたい。この栗を咀嚼して胃の腑へと放り込みたい。肉より旨くてケーキよりも甘い、魅惑的な木の実。みんな大好き裏山の栗。美味しい美味しい裏山の栗……。
「タカシ!」
その時、頬に強い衝撃を受けた。
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