栗拾異

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 やっぱり、ここはまともな場所じゃないんだ。  実際にそれを目にし、彼らは怯えながら栗拾いに励んでいた。泣きじゃくっている生徒もいる。もう自分の栗なんていらないから今すぐ帰りたい。きっと誰もがそう思っているだろう。しかしそれは許されない。途中で逃げ出した者は、この禁足地から出さないと言われたからだ。  タカシは理解した。あの男たちはあくまでも栗の受け取り役であって、先生のように自分たちを守ってはくれないのだと。 「ねえタカシ、この山の話知ってる?」 「……無駄口叩いてんなよ。早く拾い終わんないと」 「うん」  アツキの質問にタカシは素っ気ない態度を取る。本当に、今は楽しく会話なんてしている余裕なんてない。  時刻は十六時となった。多くの生徒たちは最後の一籠に差し掛かっている。タカシは少し遅れていた。ようやく最後の籠を受け取り、急いで禁足地へと戻る。  あと、一時間しかない。  最初はタカシの方が多く集めていたのに、今はアツキが圧倒的に優勢だ。  こいつは、いっつもそうだ。  色白で少し身体が弱い。僕は弱いですみたいな態度を取っているくせに、すぐに自分を抜き去っていく。  流行りのテレビゲームも、最初はタカシが教えていたのに、やがて勝てなくなってしまった。部活のバドミントンだって、めきめき実力を伸ばしたアツキに団体戦での枠を奪われた。体力はこちらの方が上なのに、もはや一勝もできない。友達も最初の頃はタカシの方に人が集まっていたが、今では運動も勉強もできるこいつがクラス一の人気者だ。彼が醸し出す儚さが、その魅力を引き立ててさらに人を惹き付けるのだ。
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