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 目覚め、辺りを見回すと、そこは小汚いバラック小屋で、トキオはパイプベッドの上に寝かされていた。 「目が覚めたか?」  声のした方を見やると、大きな黒縁眼鏡をかけたM字ハゲの老人が不気味な笑みをうかべて立っていた。 「あなたは……ここは……?」 「まあ、落ち着けや若いの。おれはスキッピオの友人のビスケット。九番で闇医者をやっている。そしてここは九番だ。お前さんはスキッピオの機転で生かされた。そして仮死状態のままここに運ばれてきたんだよ。安心しろ、やつらはなんにも気がついちゃいない」 「……エレナと、親父は?」  訊くと、ビスケットはため息を吐き、 「生憎とここへ運ばれてきたのは、お前さんだけだ」  と、言った。 「ああ……」  終わった。  何もかもが。  気づくと、左目からは虚無にも似た透明の涙、右目からは怒りにも似た赤い涙がとめどもなくあふれ出していた。失ったものを取り戻すためにとった行動で、すべてを失ってしまった。 「なにもかも、もう終わりです。生きていても意味がない」 「……スキッピオの野郎からすべて聞いたが、お前さんだけが悪いんじゃない。知らないようだから教えてやるが、いろんな人間の過ちが折り重なって悲劇は生まれるんだよ」 「でも――」 「でももヘチマもねえ。お前さんはもう充分すぎるくらい色んなものを失ったんだ。それでもまだ罪の意識に苦しむっつうんなら、生きろ。そして苦しめ。それがお前さんに科せられた罰だ」  ビスケットは口をへの字に曲げて鼻から息を漏らし、生きる覚悟があるのなら運転のできる者を捜しているひとを紹介してやる、と言った。
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