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天童さまから理由を聞いた半年後。
天童さまは永い眠りにつかれました。
不治の病に冒され、日に日にやつれ、最後は水を飲むのさえお辛そうでした。
『元気になられたら一緒にまたプリンアラモードを食べに行きましょうね』
わたくしは毎日通い、天童さまにそう申しましたが、もう一度一緒に美成堂パーラーに行くことは叶いませんでした。
それでも破談になって泣いて過ごした幾月日より、お側で過ごせた半年はとても幸せなものでございました。
「天童さま、ゆっくり休んでくださいね。それからわたくしがそちらに行くまで待っていてくださいね。今度こそ、そちらで一緒に甘いものをいただきましょうね」
晴れやかな空に一本の白い筋が浮かび、それからたゆたい、そして溶けていきます。
天童さまが煙になって天へと昇りました。
「小夜様」
天童家の家令に呼ばれます。わたくしは急いで涙を拭いてそちらを向けば家令は何かを差し出しました。
「壱郎様の手帳です。小夜様へ渡すよう言付けられておりました」
「手帳?」
黒革の手帳を手にし、他人が勝手に開いていいのか逡巡していると家令はどうぞと言います。
手帳の中は天童さまの日々の記録が納まっておりました。途中で小夜と字が見え目が止まります。
か乃やで小夜さんと会ふ
女学校帰りの小夜さんと会ふ
小夜さん裁縫得意と言ふ
小夜さん花が好き
捲るごとに出てくるわたくしと天童さまの思い出。最後は「植物園、美成堂パーラー」そして「病発覚」で終わっております。あの後音沙汰がなかったのは病が見つかったためなのだと初めて知りました。
そしてもう一枚捲り――。
そこに書かれた言葉にわたくしの涙は止まりませんでした。
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